<第三章:旅立ち>

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「ブライトン二世陛下に、永遠の安らぎのあらんことを」  ナイの声に続いて、参列者一同が唱和する。  地下墓地の中にある、国王の墓所である横穴に棺が安置され、参列者一人一人が土で横穴を塞いでいく。  やがて、横穴がふさがると、「ブライトン二世」と刻まれた墓碑がさらに蓋をするようにはめ込まれ、埋葬は終わった。  参列者達が神殿前の広場に上がってくる。  神殿前の広場は普段は一般に広く解放されているのだが、今日は鎧を着たブリアトーレの親衛隊によって閉鎖されていた。  その広場に仮設のバルコニーが設けられ、「新国王」ブリアトーレが国民にメッセージを告げることになっている。  参列者が大方出揃うと、最後にブリアトーレが現れ、仮設のバルコニーに上っていった。 「臣民たちよ」ブリアトーレは、先王が決して使わなかった「臣民」という言葉を使った。 「悲しむべきことだが先王陛下は亡くなられ、余が王位を引き継ぐこととなった。これからも余のため国のため、一層の力を注いでくれるよう希望している」  民衆の間から、ざわめきが起こった。しかし、完全武装の騎士達を前に、罵声を飛ばす勇気のある者はいなかった。 「そして諸君らに悲しみを和らげる慶事の報告がある」ブリアトーレは構わず続けていく。 「さあ、何の重大発表か」民衆に紛れてブライスはブリアトーレを注視していた。 「先王の第一王女であるライラが、この度めでたく今日ここに見えているアルゴニア皇太子、バルス殿の元に嫁ぐことと相成った」  おお・・・・  民衆のどよめきが悲鳴に変わる。 (なんということだ・・・) (ブライアン殿下をおもちゃにした上、政治の道具に使おうと言うのか・・・) (酷いことだ・・・おいたわしい・・・) 「・・・・・・」  ブライスは絶句していた。 「婚儀は喪の開けた半年後の吉日、アルゴニアの都ルゴールで行われる。エストリアとアルゴニア両国の固い絆が結ばれるのだ。なおこの葬儀のあとライラは花嫁修業のため、バルス殿と共にエストリアを去り、アルゴニアへ向かうであろう」 「・・・バルス皇太子は、そういう趣味があるのか」ブライスは腹立ち紛れに言い捨てた。  バルスがライラを娶るということは、もしブリアトーレが死んだ場合最悪バルスにもエストリアの王位継承権が発生するということなのだ。 (もしそうなれば、事実上エストリアはアルゴニアに併合されてしまう) (そして、その強大な国力を恐れる他の諸国とは、危機的状況になる可能性が高い)ブライスはそう思った。  この美しいエストリアを他国に蹂躙される訳には行かない。 「グランツ、行こう」 「もうよろしいので」 「私には充分衝撃的すぎる。一刻も早くハストル師に会わなければ」  グランツを引き連れたブライスは、早々に神殿を立ち去った。
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