<第三章:旅立ち>

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「アルゴニア皇太子バルス殿下、エストリア第一王女ライラ殿下、ご出立!」  ライラの乗った馬車が、宮殿の大手門を出ていく。  一方のバルスは鞍上にあった。  昨晩・・・ 「ライラ殿、聞きしに勝る美しさだな。この間まで王太子として戦線に立っておられた男子であったとはとても思えぬ」 「およしになって下さいまし殿下・・・・」  ナイの遣わした侍女マリアの「教育」によって、ライラはこの数日で急激に女らしくなり、自分が王太子であったことなど、とうに忘れてしまったかのように見えた。 「わかっておる。ただ俺はお前という女に満足したと言いたかったのだ」 「まあ、殿下ったら・・・」 「アルゴニアに参ったら、不自由はさせぬ。半年後の婚礼が楽しみじゃ」 「はい、殿下」  そんなやりとりがあったことなど、国民達は夢にも知らぬ。  悲哀に満ちた見送りを背に、行列は進んでいった。  行き先は、アルゴニアの都ルゴール。  ここ数年来、大きな戦こそなかったものの決して友好的ではなかったアルゴニアに、エストリア王の血筋の者が暮らすことになるのである。  事実上の人質と同じであった。  もちろんブリアトーレの方は、アルゴニアの力を利用する事はあろうとも人質を盾にされた要求を飲もうなどとは少しも思ってはおらぬ。  とりあえず自分の勢力を固めるための駒が欲しかったにすぎないのだ。  そんな思惑をよそに、ライラをつれたアルゴニア弔問団は帰途についた。
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