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「何、リシアが消えただと」ブリアトーレは、思わず大声を出した。「王女」になったブライスのことを、ブリアトーレは「リシア」という名で呼んでいる。
新国王の披露晩餐会は、前国王の葬儀の後と決まっていたので、即位式の後、ブリアトーレは引き続き執務を続けていた。
「はい。看守が目を離した隙に部屋から消えたそうでございます」ナイが報告する。
「して、捜索の方は」
「宮殿の出入り口はすべて閉鎖してございます。幸い発見が早うございましたゆえ宮殿からは外に出ておらぬ筈。現在宮殿内を虱潰しに捜索しております」
「必ず見つけだすのだ。まさかとは思うが、先王派の旗印にされると厄介だ」
「それを恐れて、先王派を監視しているのではありませぬか」ナイが薄笑いを浮かべる。
「そうとも言うがな。だから、まさかだ。よもや、そちの術が解けるようなことはあるまいな」
「まずありますまい。アウロス程度の司祭には我程の力はございませぬ。あの術を解くには、かなり条件がそろわないと無理ゆえ」
「仕掛けるのは割と簡単だったがな」
「ご冗談を申されては困ります。ヒメラの布を三枚も造り上げるのにどれだけの力を要したか・・・それに今現在もフィムの秘薬の調合にこの老体を酷使しておりまする」
「ハッハッハ、分かっておるわ。他の姫達の様子はどうであった」
「そこでございます。ライラ姫は相変わらず頑として抵抗しておりますが、それも時間の問題でございましょう。程なくご自身から進んで女性となりましょうぞ」
「そうか。だがなるべくなら早い方がよい。アルゴニアの後ろ盾は是非とも必要だ」
「なれば、リトニア姫を遣わされてはいかがです。姫ならばもう生まれ変わられたも同然、あとは女らしさを叩き込むだけのこと。もうご自身では王子とは思っておりますまい。思ったよりも簡単に女と化しましたわ」
「しかしそうは行かぬ、長女と次女では重みが違う。余はそのことをずっと思い知らされてきたのだ」
「フォッフォッフォ、そうでございましたな。尤も輿入れの発表は葬儀の後にございましょう、それまでには」
「どうも今までが我慢のしどうしであったゆえ、権力を握ったとたんに我慢がなくなる。少々慌てすぎかも知れぬのう」
「さようにござります。今はリシア姫の捜索を」
「そうであった。一応宮殿内だけでなく、それとなく市中の警備も増やしておけ。それと、アウロスやエイガンはこの際、拘束しておけ」
「かしこまりました」
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