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「ブライス殿下、そのような姿になられて・・・よくぞご無事でございました」
「導師・・・」
「時間がありませぬ。奴らが私めの部屋の隠し通路を見つけるのも時間の問題でしょう。手短に申します」
北の塔から地下通路を通って来た先は、神殿の地下墓地だった。
アウロスは神殿内の自室に監禁されていたが、やはり見張りが目を離した隙を見て抜け穴を使って地下墓地へ抜けたのだ。
「殿下に掛けられましたあの術は、ヒメラの布なる術でございます。私めも実際に見るのは初めてでございました」
「ヒメラの布?」
「さようにございます。人を思い通りの姿に変える恐ろしい暗黒魔術にて、あの布を造り上げるには相当の力が要りまする」
「暗黒魔術とは?」
「暗黒神スールを崇める暗黒教団の司祭のみが使う恐ろしい魔術でございます。おそらくあのナイなる者、暗黒教団の、それも相当高位の司祭と見ました。残念ながら私めの力ではどうにもなりませぬ」
「ではどうしろと」
「私めもただ聞き及ぶのみにて実際に会ったことはございませぬが、遥か西方のクウの山奥に住むといわれる大導師ハストルならば、どうにかできるやも知れませぬ」
「ハストル・・・まさか」
「さよう。ハストル師こそはこの神殿を建立されたお方。初代国王陛下とともにこのエストリアの礎を築かれた方でございます」
「でもそれは、数百年も前のことでは」
「いえ、ハストル師はご自分の力があまりに大きかったため、自ら山に籠もられたのです。その力のため寿命は自分でも分からぬと。この神殿を建立されたときに既に一万歳を越しておいでになりました。どちらにしろ、他に我がエストリアを救う道はないのです。事態は皆が思っておるより重大です。ブリアトーレなど小物にすぎませぬ。おそらくナイは、立場を利用してスールの復活を目論んでいるのでしょう」
「暗黒神、スールの復活を」
「もしそうなれば、エストリアだけではございません。世界が暗黒の闇に閉ざされてしまいます。それを防ぐためには、まずナイを庇護するブリアトーレを王位から追い落とさねばなりませぬ」
ガチャリガチャリ、と遠くの方から鎧の音が響いてきた。
「さ、早く。抜け道はグランツに教えてございます。必ずや、ハストル師にお会いになれますよう、心よりお祈りしておりますれば」
「導師!」
「殿下!」グランツに促されて、ブライスは来た道を戻っていった。
「誰かそこにいるのか!」アウロスの顔が、松明の明かりに照らされる。
「無礼な、お前達はこの私をアウロスと知って言っているのか」
隊長とおぼしき男が、一歩前に出る。
「これは無礼つかまつりました。されど元司祭長、この夜更けにわざわざ隠し通路なぞ使って地下墓地へ参られておるとは、どういう趣向でございますかのう」
「黙れ下郎。おのが力のなさ故に国の平穏を乱したことを先祖の方々にお詫び申し上げておったのだ」
「それは結構。国王陛下の命により、元司祭長アウロス殿、王宮へご同行願います」
騎士達は、アウロスを連れて行った。
「この地下墓地をくまなく調べろ。他に抜け道があるかも知れぬ」隊長は部下に命じた。
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