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「ここまで来れば一安心でございます」
ブライスが抜けた先は、とある町外れの古井戸だった。
「この抜け道は、市中が戦に巻き込まれたときに王族や重臣を逃がすための物にて、限られた者しか知らぬそうでございます」
グランツは、抜け道の要所要所を塞いで来たので、相当調べない限りはここまで追っ手が来る心配はなかった。
「しかし、どのようにしてハストル師に会いに行ったものか・・・」ブライスは、途方に暮れていた。
「おそらく今現在市内の警戒は厳しゅうございます。市外へ出るのさえままなりますまい。この先に、それがしの親戚の者の家がございますので。そこにしばらく潜伏し、旅道具を調えた上で参るのがよろしいかと」
「グランツ、何から何まで・・・そなたはよいのか?もし大公の手の者に見つかりでもすればそなただけではない、一族皆殺しになるかも知れぬのだぞ」
「何をおっしゃるのです!このグランツ、ブリアトーレの如き者に従って自分の利益のみを見て生きる程、エストリア騎士としての誇りを失ってはおりませぬ」
「グランツ・・・」
「さ、参りましょう。殿下もお疲れでございましょう、あと少しでございますれば」
「グランツ、少し休憩しても良いか」
「よろしゅうございますが、なにか」
「少し向こうを見ていてくれ」
「は」
ブライスの目から、堪えていた涙が流れる。そして、父が死んでから初めて、泣いた。
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