僕はマーキー

2/6
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 僕の名はマーキー。この国では誰よりも人気者。みんな僕の事を好きでいてくれるのか、僕を見つけると必ずといっていいほど、こぞって近寄ってきてくる。握手はもちろん、頭を撫でてくれたりする。多くの人が、可愛いと一言添えてくれる。写真なんか今まで何枚とったか分からないくらいだ。もちろん、そんなみんなには、きちんとお返しをするのは当然。一番得意であるダンスを踊り、感謝を名一杯伝える。すると、喜びの笑みを見せて、拍手をくれる。結局、僕ばかりがみんなに元気を貰っていると思う今日この頃だ。でも、そんな僕でもずっとこんなではなかった。昔の僕は、ちょっと違ったんだ。ずっと、僕を中心に世界が回る。そう思っていた。この着ぐるみを纏っているからだと知らずにね。  僕がマーキーになってから九年が経つ。大学時代になんとなく受けたアルバイトの募集に、応募した事がきっかけだった。大学では演劇部に入り、主役を何度も務めるほどの力を持っていたので、そこそこの自信を持っていた。だからこそ、僕は面接を、受けてみることにした。  面接では今まで受けたコンビニや倉庫の荷物整理とは違い、大人達の前で、演技やダンス審査などを受けた。幸運な事に、高校時代に仲間達とストリートで踊っていた事もあり、僕はその二つを難なく突破する事ができ、晴れてこのテーマパークの一員になれたのだ。    ここに入ってから僕は、ずっと魔法をかけられていた。それはマーキーを身に纏うと、不思議な力を身につけるのだ。一気に人気者になり、とてつもなく人を惹きつける力を手に入れる。僕の元にやってくる人は、誰もが笑顔になり、とても幸せそうな顔をしている。大学時代に板の上でスポットライトを何度も浴びてきたが、それは比べものにならないほどに。向かってくる声。視線。どれもが今までに味わったことのない輝きを持っていた。  僕はこの上ない快感を得るようになった。一気に人気者になった。中でも、僕を見て目を輝かせて笑う少年に出会った時なんかは、嬉しくてたまらなかった。この仕事をして、楽しさに勇気を与えてくれた少年だ。彼はいつまでも僕から離れようとしなかった。キラキラとした羨望の視線を向けて、それを離そうとしなかった。あれは本当にいい思い出だ。  しかし、そんなマーキーを脱げば、さっきまでの世界が嘘だった様に、世界は変わる。誰も僕に目を向けようとしない。まるで魔法が解けたように。そんな光景を不思議に思いながら目をあちこちと向けていると、気味の悪い男を見るように、怪訝に鋭利的な目を向けられる。一度、こんな事があった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!