僕はマーキー

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 電車に乗っていると、楽しそうにはしゃぐ女の子達を見かけた。よく見ると、その女の子達は、数日前にマーキーとなった僕の元にやって来た女の子達だった。女の子達は、溢れきった笑顔を見せて、とても嬉しそうに僕と手を繋いてきたり、写真を取ったりと、楽しい時間を過ごしたのだ。  僕は、その時の光景を浮かべながら女の子の方に目を向けてしまっていた。楽しい思い出を振り返るかのように。すると、こちらの視線に気が付いた彼女達は、こちらにじっと目を向けてきた。しかし、その目はなぜか嫌悪感を抱くような軽蔑の目だった。今でもはっきりと覚えている。その瞬間、なんで? どうして? あの時、あんなに喜んでくれていたのに。いくつもの驚きと疑問が頭の中に浮かんだくらいだ。でも、すぐに錯覚していたのは自分なんだと気付いた。だって僕はもう、魔法が解けているんだから。今の僕はマーキーではないと。  この瞬間、とてつもなく寂しい気持ちを抱えた。着ぐるみを脱げば、誰も笑ってくれない事を知ってしまったんだ。一度そんな事を思ってしまうと、冴えない気持ちは離れなかった。心にぽっかりと穴が空いたような感覚が胸に残ったままになった。僕がマーキーの着ぐるみを纏っているから人は喜ぶ。お客さんは僕に喜んでいるんじゃない。マーキーを纏う僕に喜んでいるのだと。そんな事に気が付かなかったのは情けない。今では当たり前だとはっきりと理解できるが、あの時の僕はどうかしていた。きっと気が大きくなっていたのかもしれない。だがそんな僕に、どこの誰かが、さらに追い討ちをかけてきた。  スマホを覗いくと、SNSのアプリから通知が届いていた。それをいつも通り開くと、そこにはあいつの眩しい笑顔の写真があったのだ。   映画の披露試写会での写真。誰もが知っているような役者と並ぶ姿。そこにはシャッターの光がきらきらと輝いていた。 「あいつ、ここまでいったんだ」  無意識に僕は呟いてしまった。その時、隣の席の学生が顔を向けたのがわかった。その目線は、相変わらず嫌悪感を抱くような視線だ。  写真に映るあいつとは、秋田一馬。大学時代の友人だった。今のあいつは、吉野一馬としてテレビや映画で活躍している。ドラマをよく見る人なら、あの顔を見て、気が付く人もいると思う。朝の情報番組で、秋田はそのように紹介されていたくらいだ。  秋田は、大学時代に先輩の勧誘で演劇部に入った。今思えば、それがあいつの転機だったのがしれない。あいつはすぐに演じる事に魅力を感じたらしく、大学を中退して、後に劇団に入った経歴がある。  秋田が大学を辞めたのは突然だった。何も前触れもなく大学も演劇部を辞めると告げてきたのだ。同じように板の上に立ち、人を楽しませる喜びを味わっ たのにどうして? 僕は寂しくなった事を、はっきりと覚えている。
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