僕はマーキー

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「演技で勝負したい。俺にはこれしかないんだ」  決意が固まったあいつの目に、返す言葉が出てこなかった。内心、本当に大丈夫なのかという疑いが心に沸いた事も含めて。  この時僕は、演劇部の中で、すでに主役の座を射止めていた。それを引き立てるのが秋田だった。そんな秋田に、上の世界で勝つ事ができるのか? 僕は無理だと思ってしまった。  それから秋田とは疎遠になった。連絡すら取らなくなってしまった。毎日顔を合わせていたのが嘘だったかのように。  テレビを見ていると、時間が止まったような感覚になった事を忘れない。たまたま見ていた二時間ドラマに秋田の姿が画面に映っているではないか。目を疑った。信じられなかった。あいつは、その手で夢を叶えていた。    あいつはその映画の出演により、あっという間に手の届かない存在になっていた。次々と秋田の姿が目に入るようになったのだ。確かに、スクリーンの中にいる絵力は素人同然の僕にも見て取れるものがあった。  大学時代の事なんて、遠い過去だ。もう僕の知っている秋田じゃなくなっていた。写真に映る輝きだってそうだ。その瞬間、ふと気持ちが途切れそうになった。  それから僕は、あれだけ楽しかったマーキーへの変身が楽しく感じられなくなった。苦痛で仕方なくなっていた。  僕はただの二十七歳の成人男性だと思った。どこにでもいる変哲のない男に過ぎない。そこは暗く地味な世界。僕には誰も笑ってはくれない。自分の生活がとてつもなく惨めで、小さいものに思えるようになった。毎晩着ぐるみを脱ぐと、家の近くのスーパーで買ったレモンサワー三本と、値引きされた惣菜を買って時間を過ごす毎日。いくら人を喜ばしているとはいえ、俺はあれを着ないと何もできない。キャラクターの中身なんて、代わりはいくらでもいる。そう思うようになった。  酒を飲んでも現実は変わらない事は承知しているが、飲まないとやっていられなかった。  なんなんだこの差は。どうしてあいつばかりが注目されるんだ。あの時は一緒だったじゃないか。いや、僕がそう思っていただけかもしれない。ただの勘違いか? 自惚れていただけだったのか? そんな事を一度考えてしまうと、余計に自分が惨めに思えて仕方がなかった。
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