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【エピローグ】
藤堂 裕美香
あの嵐のような出来事から半年。
私はサクちゃんと暮らした宮古島のアパートを引き払って、東京に戻って来ていた。
仕事は相変わらずバイトを転々とする感じだが、それでもどうにか生活は出来ている。
ミツルさんに指摘された通り、私はそこまでサクちゃんを愛していた訳じゃない。だって、愛の度合いをあの兄弟と比較された日には、ガチンコなんてとても言えない。
だけど、私はサクちゃんが好きだった。それは、サクちゃんがイイやつだったからだ。
それだけで籍を入れて、納骨まで取り仕切るというのは、我ながら度が過ぎていると思う。が、私の人生の中で、たまにはそんな事があってもいいような気がしたのだ。
それに、一樹さんやミツルさんとサクちゃんの話をするのは面白かった。
愛を伝えてくれと訳のわからない事を言ったサクちゃんは、予定よりだいぶ巻きで旅立ってしまった。だから、私は伝えるべき愛をサクちゃんから伝達される事なく、一樹さんの元へ向かう嵌めになったのだ。
その苦し紛れの台詞が『一樹さん、私、あなたと一緒にサクちゃんの話をするために沖縄から来たんです』だ。
まぁ、それでも結果オーライだったのでは無いだろうか。
私が拙い言葉で伝えるより遥かに鮮明な記憶を一樹さんは宿しており、それを辿る勇気を持っていた。
ミツルさんと私がその一旦を担ったお陰と言ってはくれたが、それはどうかな。
目を背けていた過去の記憶と対峙すると同時に、認めたくない予感を受け入れるのは、計り知れない痛みだっただろう。
流石、サクちゃんの弟と、変なところで私は誇らしく思った。
そんな兄弟に纏わる一件は、私の中で自身に関係の無い過去となりつつある。
だって私がした事は、偶々すれ違った気が合う人に力を貸してあげた、それだけなのだ。
けれど、これからも私はあの二人を思い出したりするのだろう。夏の暑い日にアイスを齧るなど、ふとした瞬間に。
その時蘇るサクちゃんの顔が、笑ってるといいな。
そんな風に思いながら、私は朝のラッシュに乗り込むべく駅の階段を駆け上る。
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