2人が本棚に入れています
本棚に追加
アリさんたちは、私のお話が終わると興味を失ったのか、すぐにせっせと仕事に戻っていく。
もう少しで寒い冬がくる。 今回はいつもと違うと感じた。
もうすぐにでも外に出たい! そんな気持ちばかりが私を支配していく。
そして、待ち望んだ冬が訪れた。 うーんと寒くても、ここは居心地が良い。
それでも、上を目指す気持ちは日増しに強くなるばかり、ついには耐えきれなくなり、ポコッと芽をだした。
「わぁ、これが雪なのね」
辺り一面が純白の世界に包まれ、とても静かでキラキラと輝いていた。
太陽の光を私は初めて体験するが、土の中よりも心地よいなんて知らなかった。
あまりにも優しく、そして力強い。
周りでは誰かの話声が聞こえる。
「やぁ、元気?」
振り返ると、そこには真っ白な妖精さんがヒラリヒラリと舞っている。
「えぇ、とても、今すぐにでも花を咲かせたい」
「クスクス…。 まだ、もう少しだけ待って、僕たちのお仕事が終わるまで、でも春を呼んでこなくちゃ、だからいつも君たちには春を呼んでもらう大役があるんだ」
「あら、それはとても大切ね」
「うん、だから、ほんの少しだけ待ってて」
太陽の光が反射し、眩しく光る妖精さんはまるで、その光を衣のように纏うと軽めのステップを溶けかけた雪の上に跡を残しながら刻んでいく。
最後には、またクスクスと微笑むと空へと戻っていった。
「さぁ、君たちの出番だよ。 この世界を変えておくれ」
もぞもぞと私の先端が疼きだし、ゆっくりとまだ寒さが色濃く残る空気に、小さな花を咲かせた。
私の花冠は下をむく、空を見上げない。 だって、私は春を告げる花。
小さな白い太陽なの。
雪を照らしていく、「もう春だよ」と教えてあげるのだ。
最初のコメントを投稿しよう!