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 テストの結果は散々だった。幸いにも、休校の影響が強く出て学校全体の平均点が低かったから、俺は辛うじてクビを免れた。 「お前は俺をクビにしたいのか……」 と、小言を言ってみたものの、テスト前に晴一の相談に乗ってやれば、もう少し結果は良かったのかも知れないとも思う……  いや、ちょっと待て……本当にそうだろうか。  ここ最近の晴一は、いつもとなんら変わりはなかった。しょんぼりとしていたのも俺が質問をはぐらかしたあの直後のみで、次の授業の時はいつもの晴一に戻っていた。  今だって俺の小言にムキになって「そんなん絶対ヤダ!次はちゃんと頑張る!!」なんて言っている。悩みがあったにはあったかもしれないが、あの後の数日で解決してしまったのかも知れない。高校生の悩みなどそんなもんだ。 「ま、でも約束は約束だからな。不本意だけど飯に連れてってやる」 点数が良かったらの追加条件を出しそびれた手前と、あの日、面倒とはぐらかしてしまった罪悪感を払拭するためだ。晴一は、小躍りしながら「肉!肉!!」と喜ぶ。 「元はと言えば、てめーの親御さんの金なんだからな。そんな高いもんは食えねえぞ」 「何気にうちの家計をディスるなよ……」 そうヘラヘラ笑う姿も、悩みなんかなさそうに見える。やはり、俺の考えすぎだろうか……  もし、晴一の悩みが、予想通り男とやっちゃいましたって事だったら、なんと言って慰めてやろうかと数日間考えていた。俺の秘密を打ち明けようかとも考えた。 ――俺はゲイだ  そう認めたのはごく最近だった。なんとなく自分の恋愛対象がおかしいのではないかと感じてはいた。それが嫌で女とも付き合ったけれど、セックスをしようとしても身体的な理由で行為を終えることは一度も出来なかった。やけっぱちを起こし高校生の時に売りをして、男と寝た。その時だって、単に金が欲しかったからと自分に言い聞かせていた。  そして、大学に入り、天志さんと出会った。  一目見て好きになった。容姿はもちろん好みだけれど、雰囲気に惚れたと言った方が近い。だが、その時も、男が男に惚れると言うのは憧れの最上級であり、その人には到底敵わないと言う畏敬の念であるとグダグダ理由付けをしていた。  それがある日突然、憑き物が取れたかの様にふと、この気持ちを認めてもいいんじゃないかと思えたのだ。きっかけはない。  ゼミ生になってからと言うもの、俺は天志さんに金魚の糞の如くつきまとった。どこまでもマイペースな天志さんを誰よりも傍で見ていて、自然とそう思えたのかも知れない。天志さんが教授の勧め――と言うか願い――で院生になると聞いた時は、嬉しくて記憶が飛ぶまで飲んでしまった。その時点で、既にバレているのではないかとも思うが、俺の中で秘密は秘密である。  数日間悩んで、これを打ち明けるのはよそうという結論に至った。  晴一を通して、天志さんにバレてしまうのが嫌なのはもちろんだけれど、この話を聞いて晴一が勘違いするのはもっと悪い。たかだか噂に操られ、一時の迷いを踏んだとしても、その言い訳として俺もそうなのかもとは思って欲しくないし、なにより心外だ。  約束は次の土曜日に、予算の関係上、俺のアパートで焼肉をすることにした。天志さんも呼ぶか?と提案してみたが、晴一が渋ったので二人でということになった。その様子から、悩みは解決したとしても、何か話したいことがあるのだなと言うことは明らかだった。  天志さんが言った通り――例え予想が外れたとしても――ただ話を聞いて、お前は間違っていないだの、大変だったなだの優しい言葉をかけてやればいい。と俺の腹は決まっていた。
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