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 ハリムが家に帰ると、母兎(ははうさぎ)に迎えられた。 「おかえり。私の可愛い坊や。今日のおやつはホットケーキよ」  母兎の笑顔を見て、ハリムはほっとする。食卓には小麦粉と砂糖、卵と牛乳が置いてあった。それらはホットケーキを作るための材料だ。つまり、 「自分で作れって言うんかーい!」 「お前はやれば出来る子よ。ほほほ!」  母兎は笑い、用事があるからと言って出掛けた。  お腹が空いたハリムはホットケーキを作ることにする。  小麦粉と砂糖は合わせて振り、卵は卵白と黄身を分けてメレンゲ作り。それから牛乳、すべての材料をボウルに入れて泡立て器でぐるぐる搔き混ぜ、とろりとした生地を作った。  そして温めたフライパンに薄く油を引いてから、生地を丸い形に流し入れて焼くと。ぷんと甘く焼ける匂いが広がる。 「美味しそうだね」  そこへもう一人の兎の男の子が、窓から顔をひょっこり出して現れた。彼はハリムの姿を真似た、夕闇に咲く(すみれ)色の鏡に棲む精霊。鏡の中から抜け出してきたんだ。 「何だよ、お前。僕の家にまで来て!」  取り憑かれた気分になる。 「少し分けてよ、ホットケーキを」 「やだよ、一人分なんだから」 「そんなこと言わないでさ、一口だけ」  一口だけと言いながら、ハリムに化けた精霊はホットケーキをぱくぱく食べる。空腹なのか。 「わあ、やめろよ。僕の分がなくなる!」  ハリムも一緒に食べると、二人で早食い競争になってしまった。まったく味わえず、ナイフとフォークで剣戟(けんげき)を繰り広げて疲労する。
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