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3
ハリムが家に帰ると、母兎に迎えられた。
「おかえり。私の可愛い坊や。今日のおやつはホットケーキよ」
母兎の笑顔を見て、ハリムはほっとする。食卓には小麦粉と砂糖、卵と牛乳が置いてあった。それらはホットケーキを作るための材料だ。つまり、
「自分で作れって言うんかーい!」
「お前はやれば出来る子よ。ほほほ!」
母兎は笑い、用事があるからと言って出掛けた。
お腹が空いたハリムはホットケーキを作ることにする。
小麦粉と砂糖は合わせて振り、卵は卵白と黄身を分けてメレンゲ作り。それから牛乳、すべての材料をボウルに入れて泡立て器でぐるぐる搔き混ぜ、とろりとした生地を作った。
そして温めたフライパンに薄く油を引いてから、生地を丸い形に流し入れて焼くと。ぷんと甘く焼ける匂いが広がる。
「美味しそうだね」
そこへもう一人の兎の男の子が、窓から顔をひょっこり出して現れた。彼はハリムの姿を真似た、夕闇に咲く菫色の鏡に棲む精霊。鏡の中から抜け出してきたんだ。
「何だよ、お前。僕の家にまで来て!」
取り憑かれた気分になる。
「少し分けてよ、ホットケーキを」
「やだよ、一人分なんだから」
「そんなこと言わないでさ、一口だけ」
一口だけと言いながら、ハリムに化けた精霊はホットケーキをぱくぱく食べる。空腹なのか。
「わあ、やめろよ。僕の分がなくなる!」
ハリムも一緒に食べると、二人で早食い競争になってしまった。まったく味わえず、ナイフとフォークで剣戟を繰り広げて疲労する。
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