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とある兎の男の子――ハリムは、今日も元気に村の学び舎で過ごして勉強の時間を終え、友達と帰り道を辿っている。
「今日の体育は駆けっこで、疲れたねー」
「でも楽しかったよー」
「じゃあまた明日、ハリム!」
「うん、また明日ー!」
ハリムはいつも通りに道端の草花を摘んだり毛虫をつついたり、ぶらぶら遊びながら帰り道を歩く。
雑草が伸び放題の空き地を通りかかったところで彼は、ふと気づく。
「あれ……? あんなの今朝は置いてなかったと思うけどなあ」
ハリムは雑草の空き地に打ち捨てられたと思しき鏡を見つけた。関心を示すハリムは雑草を掻き分けずんずん空き地に入り、鏡の前に立つ。
姿見だ。
鏡面は普段使っているものとは違う、夕闇に咲く菫の色。触れるとひんやり、氷のよう。蜘蛛の巣のような罅割れがあるものの、ハリムの姿をくっきりと映す。
ハリムは鏡の中の自分に向かって話しかける。
「こんにちは。お前は割れちゃったから捨てられたのー?」
返事はないと思ってしたことだったのだが、なんと鏡の中の自分は返事をしてきた。
「その通り」
ぎょっとしたハリムは身を退く。
「ふふふ……」
鏡の中のハリムは不敵に笑う。何だ、この鏡は?
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