第八章 『またたきに』

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 みなみさんのように心惹かれ、誰かがスルリと手を引いて連れて行ってしまうかもしれない。  それは……どうしても嫌だ。  ハッキリ気付いた気持ちを、今伝えないでどうする。  ドッドッと異様に早くなる心音を感じながら、伸ばした指で塩瀬さんの大きな左手に触れると、彼はバッと私を振り返った。 「……え」  見たことのない目を開いた様子に、一度俯きかけたがもう一度顔を見て、やっぱり俯いて、その代わりに握った手に力を込めた。
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