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11月22日
「今日は『いい夫婦の日』らしいぞ」
雑誌を読んでいた真矢が前触れもなく言葉を発した。
「なんだそりゃ?」
古いゲーム機をプレイしていた透哉は、視線は画面に向けたまま振り返らず返事をする。
「『11月22日』で『いい夫婦』。語呂合わせだな。色んな事を思いつくものだ」
「いい夫婦ねぇ」
しばらくゲームをしていた透哉が、その手を止めてコントローラーを置く。
「いい夫婦の定義ってなんだと思う?」
その質問に手に持っていた雑誌を置き、真矢は考える。
「そうだな。やはり仲が良く、長い間一緒にいる夫婦、ということではないだろうか」
「そりゃあそうだけど、それが全てとは限らないじゃん?」
「ほう、例えば?」
「例えば――」
ソファーの上で体を回転させ、真矢の方へ向き直る。
「ずーっと両思いだったけど、お互いの家柄とか仕事とかの関係で中々結婚できなかった二人。でもその愛は本物だ。この二人なら結婚して日は浅くても『いい夫婦』だと言えるだろ?」
「確かに」
真矢は妙に納得した顔で、深く頷く。
「他にも、お互い愛はないけど『子どもが成人するまでは、子どもの前では仲の良い夫婦を演じよう』と、子どもに悟られることなく成人するその日まで『いい夫婦』を演じ切る」
「ほうほう、それは立派だと思う。僕はその二人はたとえ仮初でも『いい夫婦』だと思うな」
「まて、まだ続きがある」
手を真矢で制する。
「子どもの成人式の夜、二人は離婚届を記入しているんだよ。でも、そこで違和感を感じる。本当にこれでいいのか、と。そう偽りだった筈の愛は、演技だったはずがいつの間にか本物になってしまっているんだよ。つまり演じているうちに本当に二人は愛し合ってしまっていた。そのことに気づいたんだ。すると、ペンを持つ手は震えだし、瞳からは雫が……」
「待て」
徐々にテンションが上がっていく透哉を、今度は真矢が手で制した。
「その話、長くなるのか」
「……全六編の超大作だが」
「……なら、とりあえず今日はそこまでで」
「ちぇっ」
透哉は心底不満そうな顔をする。
「しかし、「いい夫婦」という定義は曖昧且つ、外野が決めることじゃないのかもしれないな」
「真矢、お前綺麗にまとめようとしてないか」
「してない、してない。それに我々には縁の無い話だったな」
「本当になー」
そこまで話すと二人は、お互いの作業に戻っていった。
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