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目を覚ますと、外はもう明るかった。
何時もは夜明けと共に起こされるのだが、今日はあいつが来ない。前は鏡に頭をぶつけていたが、また何かやらかしたのだろうか。
対して広くもない診療所の寝室。あいつが寝ているベッドの上を見る。
「……はぁ」
なんだ。普通に寝ているじゃないか。
俺の前で眠る少女はノア。元はハンドウイルカ。この「島」の光を浴びて、ヒトの姿を得た。銀色の髪に白いシャツ、灰色のベストと黒いズボン。首から下げたボトルメールは、ノアの宝物だ。
目を閉じて、すやすや息をして。「むへぇむへぇ」と謎の寝息を立てながら夢の中。そこには何の問題も……
「……っておい⁉︎ ノアどうした⁉︎ 」
いやいや、こいつの場合は「普通」じゃない。
イルカの仲間は水中で溺れないように、体を半分ずつ眠らせる。ノアも普段は片目を開けて寝ているのだが、今日はどちらも閉じているではないか。なんだこれ。もしかして病気?
「おい起きろノア‼︎ どっか悪いのか? 怪我でもしたのか? 」
「むへぇむへぇ」
「どうしたんだよ⁉︎ 夜明けと一緒に跳びかかってくるじゃないか⁉︎ あれがないと俺、起きた気がしねぇよ⁉︎ 」
「むへぇむへぇ」
むへぇむへぇが止まらない。もしかして悪い夢でも見てるのか?
「どどど、どうしましたっ⁉︎ 」
激しい羽音と白い影。シロカツオドリのアオイだ。診療所の屋根に落ちてきたことで俺たちと出会い、一緒に旅をした後、ここで暮らすことになった。
「ノアが両目閉じて寝てるんだよ‼︎ アオイ何か知らないか? 」
「ほえっ⁉︎ 特に心当たりは……」
早朝から大騒ぎの診療所。怪我や病気を治すこの場所も「ハンドウイルカが両目を閉じて眠るむへぇむへぇ病」の前には無力だ。
くそっ。今日は客が来る日だってのに、初っ端から事件かよ。とにかく、彼が来る前に解決しないと……
「なんだなんだ、朝から大騒ぎして。元気は何よりだけどな」
あ。来た。
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