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プロローグ
すうっと静かに上がっていった光の球は、一瞬消えたあと、ドーンと大きな音を立てて弾け、漆黒の夜空に花が咲いた。ふわりと広がったその光は、やがて向日葵の形になる。次は桜、たんぽぽ、チューリップ――色とりどりの花火が、様々な花の形になって咲く。
大輝の肩の上で、周囲の歓声に負けないくらいの声で、「すごいね!」と愛奈は叫んだ。
今日、五歳になったばかりの娘の顔を見上げる。今でも鮮明に覚えている、生まれたばかりの愛奈の表情。私はここにいるよ――そう言わんばかりの声で叫ぶように泣いていた、愛奈の顔。そうして、やがて笑うことを覚え、食べることを覚え、立つことを覚え、歩くことを覚えていった。そこには必ず、笑顔があった。
愛奈は一心不乱に、夜空に咲く花を見つめ、歓喜の声をあげ、手を叩いて、そして笑っていた。
娘の笑顔。これが、たからもの。これが幸せ。
自分も五歳のとき、ここで花火を見たのだ。東京マジカルランド十五周年記念の、盛大な花火だった。あのときの感動は忘れられない。
この場所は思い出の場所だ。普段は笑わない父と母の、最高の笑顔を見た、思い出の場所。
誰もが魔法にかかってしまう、素敵な場所。
愛奈の笑顔も、あの花火に負けないくらい輝いている。
ねえ、母さん。元気ですか――
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