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第二札 生者の思いと死者の想い
「家政婦を募集する」
そう宣言してから一週間が過ぎた。
宣言したその日にすぐ公告会社に連絡を取り、とりあえず急ぎで新聞等に挟まれている求人募集の1枠を買った。
☆初心者・未経験者大歓迎!
☆家事の出来る人急募!
☆アットホームで落ちついた職場です♪
☆住み込み可!(その場合はお部屋も個室です)
☆給与・勤務時間は応相談!高収入も夢じゃない!
※告知事項有
……最後の一文で一気に事故物件感が出た。
ちなみに。
「住み込み可って……この家で性犯罪を犯さないでよね…」
とサキに言われた。
メイドさんは男のロマンだが、さすがに犯罪はしねえよ。
多分。
いやいや絶対に、だ。
俺は新聞を取っていないが広告が新聞に挟まれるのは今日のはず。
面接希望の電話があればいいんだがなぁ……。
なんて事を祈りながら俺は自分で焼いたパンをかじって、カフェオレで流し込んだ。
「美味しそうだね」
いつからそこにいたのか、俺の背後をふよふよと漂うサキ。
「食うか?」
そう言ってかじったトーストをサキの鼻先に突き出してやる。
「利剣がかじったのなんて汚いからいらない」
「おまっ……! そこは幽霊だから食べれないよぉ、とかだろ!?」
「汚いからいらない」
「くっ……」
思春期の女の子って皆こんな面倒くさくて腹立たしいのか!?
お父さん泣いちゃうよ?
いや俺だって20歳だからな多分そんな変わらねえよ?
「そういやサキ、あれから何か進展ないのかよ? 思い出した事とか」
「うーん、特には…。この館を出ようとすると嫌な気持ち? 気配になる位」
霊に嫌な気持ちとか気配とか感じるんだろうか? 謎だ。
「サキって、地縛霊なのか?」
「そんな事わかんないよ……」
「早く極楽へ行けたらいいな」
「……どうなんだろ…。成仏したいとか思わないんだけど…」
「可能なら家政婦さんが仕事に来てくれるまでには成仏してくれたら悩みが減る」
「ひどぉ!!」
サキが回し蹴りをしてくるがそれも俺の頭をすり抜ける。
…ピルルルル!
と、俺のスマホが急に鳴る。
「お? おぉ!?」
待ち望んだコール音。
俺は急いで通話ボタンをタップする。
「もしもし逢沢利剣です。あ、はい……はい…」
通話をする利剣の様子を、サキは面白くなさそうな顔つきで眺めていた。
―――サキside―――
「ちぇー……サキの家なのにさぁ…」
食堂を離れたサキは二階の廊下をゆったりと浮かんでる。
確かにサキは死んでるし、記憶も全然なくって…。
ここがサキの家だーって事くらいしか覚えてないけどさ…。
次々と人を増やすのはなんか…納得できないや。
近くの町とか景色を見たら何か思い出すかも、って思ったけど屋敷を離れたら何か、ゾワゾワ? ゾクゾク? 良い気分がしないの。
だから屋敷と庭をぶらぶらはしてるけど……何の手がかりもない。
利剣はなんだかんだで良い奴なんだと思う。
サキの事、祓わないでいてくれるし、話相手にもなってくれる。
何を言っても何をしても本気で怒ったり嫌ったりしない。
何をしてもって言っても触れないんだけどね。
サキは平気だけど利剣は夜は寝ないとだから話しかけないようにしてる。
……最初の二日間は話相手がいて嬉しかったのと寂しかったので夜中じゅう話しかけちゃったけど。
翌朝スマホでお経を自動で読むアプリをダウンロードしてたなぁ~。
サキに全く効果が無くて絶望してたけど。
「新しい人、かぁ……」
大丈夫なのかな?
サキの事、攻撃したり襲ったりして来ないかな?
それとも、姿を見て逃げちゃうかなぁ……。
「なんか……ヤだな……」
外はいい天気ですごく明るいのに、サキの気分はどんより曇り空だよ……。
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