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第四札 メイドさんを雇おう! ~面接完結編~
瀬堂さんが屋敷を出てから俺はスマホで検索をしてみる。
幸い次の面接の人までまだ時間が若干あるし。
「ええっと…ホウジュツシ…っと」
検索サイトに「まさか 法術師」と類似するキーワードが表示される。
「法術師……まさか…」
適当なサイトを開き、文字を読んだ俺は驚いた。
「この世界には……法術なるものがあるのか!!!」
法術。
遠い昔に大陸から伝わったとされる陰陽五行という理を基礎とし、
5つの属性・性質の力を具現化して様々な現象を顕現させる術。
その術を発動させる事が出来る者を「法術師」という。
サイトの説明を纏めるとそういう事だった。
「すげえ!すげえなこの世界!!」
幽霊の存在に法術。
元の世界ではオカルトだ、非現実的だのと言われていた事が
この世界では当たり前の現象になっている。
「この世界、調べたらまだまだ色々出てきそうだな!」
テンションが上がった俺は法術師の事を知るべくどんどんと
ネットサーフィンにのめり込んでいく。
リンゴーン…
「あ…もうそんな時間か。」
スマホの時間を見れば約束の時間5分前。
「さて、ちゃっちゃと済ませて検索の続きをしますかぁ…」
首をコキッと鳴らし背伸びを一つして
面接希望者を館に招き入れる為、俺は部屋を後にした。
「こんにちは」
目の前にいたのはリクルートスーツに身を包んだ黒髪短髪美人。
「こんにちは。本日このお時間に面接して頂く葉ノ上と申します」
言って一礼する葉ノ上さん。
うん?
疲れ目かな。
なんか葉ノ上さんの下半身―――腰回りが少しぼやけて見える。
いや、やらしい目で見てる訳じゃないから。
目をこすり、再び見る。
蜃気楼みたいにゆらゆらしてる。
「あの……」
俺が腰をガン見しているのを葉ノ上さんが訝しげに声をかけてきた。
「ああ!すみません!ど、どうぞ中へ」
玄関のドアを開けて入室を促す。
「…は、はい」
これは警戒されてるな。誤解なんだが…。
玄関から面接部屋として使っている応接間までの間、
何となく気まずい空気だったことは言うまでもない。
「ええと、どうぞ座って下さい」
「ありがとうございます」
応接間に入ってもらって座るように勧めたが、葉ノ上さんは
俺の言葉に対して一礼だけして座らない。
(ほぉー、凄い礼儀正しい子だな)
葉ノ上さんの俺に対する印象は不審感マックスだろうが、
俺は葉ノ上さんに対して今までの子にない
礼儀礼節を重んじる所に感心させられた。
俺が自分の席に座ってから再度「お掛けください」と声掛けをすると
「失礼致します」
と言って椅子に座った。
「ええと、葉ノ上静流さんですね」
「はい。宜しくお願い致します」
「先程は失礼しました。ちょっと視界がぼやけてまして」
「……いえ、大丈夫です」
俺の精一杯の言い訳を無表情で返してくれた。
うう、気まずい。
「こちらこそ。ええーと…まず、志望動機をお聞きしてもいいですか?」
「はい。一通りの家事はこなせるかと思います。それが今回求人を出されていた
逢沢さんの募集に希望した志望動機です。」
真面目か。
「ふむ、確かに家事の出来る方はこちらとしては必要としている人材です」
「はい」
必要としているのだが…無愛想だなぁ…。
無表情?真剣だからか…?
「……」
「……」
クール系なのかな。緊張しているのかな?
「ちなみに通いと住み込みが選べますが、希望はありますか?」
俺の質問に対して葉ノ上さんが一呼吸をおき、そして
「……ご迷惑でなければ住み込みでお仕事をさせて頂ければ、と思います…」
と答えた。
え?まじで?この子も?
十九歳だよね?
この辺りの地域の子は何かワケありなの?
めっちゃ礼儀正しいのに、ハジけたいの?
「え、ええと、ご両親からその辺りの許可は…頂けるんですか??」
何で年下の子に気を遣って敬語で話かけてるんだ俺。
「あ、はい…今は両親は別々に住んでいますが…父なら許可を出してくれるかと思います」
うわ、地雷踏んだ!
両親別居?やべぇ所つついちゃったよ。
しかも父さん許可出す、って、親父さん大丈夫かよ。
これは、なんか雇ったら後々揉めそうな家族か…?
「そ、そうですか…。」
「はい…」
うーん…この子は不採用かなぁ…。
と、俺は履歴書に再度目を通してどこか不手際や断る理由がないか探してみる。
が、丁寧かつ綺麗に書かれた字に一切の落ち度はなく。
ふと最後の項目欄である「特技」で目が止まった。
「……ちなみに、特技に若干の武道の心得、とありますが…」
「あ…はい、少々剣術を学んでおりまして…」
「剣術!?」
やっべ、ちょっと声裏返っちゃったよ。
素っ頓狂な俺の声に葉ノ上さんも一瞬ビクってなったし。
まじごめん。
「は、はい…。空き巣や強盗であればある程度の対処はさせて頂けるかと思い…書きました…」
マジかよ。
セ○ムいらねぇじゃん。
アル○ックいらねぇじゃん。
強さによっては霊長類最強の女性を住ませるようなもんか?
「なるほどなるほど…」
「………」
あれ、よくみたら何か不安そう?に俺を見てる。
ポーカーフェイスで分かりにくいだけで、実は緊張してるのかな?
「葉ノ上さん、緊張してますか? 」
「あ、はい…。面接などはこれが初めてでして…。」
「あはは。実は俺もこういう面接、初めてなんですよ」
「そうでしたか…」
俺のくだけた反応に、葉ノ上さんの肩の力が少し抜けたような気がする。
その証拠に、そのポーカーフェイスに少し、安堵の色が見えた。
なるほどねぇ…。
俺は初めに抱いた印象を改める事にした。
彼女は不器用なのではないだろうか。
いや、仕事とかには凄い真面目に取り組んでくれそうだけど。
人づきあいがそんなに上手ではない、みたいな。
勝手な先入観だけど。
そんな事を考えていた時だった。
ニュッ……
実際そんな音はしておらず、俺の見た光景を表現しただけなんだが。
葉ノ上さんの座っている背後のドアから、女の子の首が飛び出した。
「んほぐふっっ!!!」
さ、サキィィィィ!!!!?
「……?」
俺の奇声と視線の方向を察し、葉ノ上さんが振り返る―――
ヒュッ…
振り返る前にサキは首を引っ込め、葉ノ上さんの目には普通のドアが映っている。
「申し訳ない!なんか黒いアレが見えた気がして!」
「黒い……ぁ……ぇ…」
俺の言葉に、葉ノ上さんがこちらに一旦向き直るも、黒いヤツの恐怖からか再度振り返った。
「すいません!気のせいでした!見間違えでした!」
「そ、そうですか……」
こっちの世界でも黒いアレ、で伝わるのか。Goki。
ヌッ……
今度は葉ノ上さんの真上の天井から顔を出すSaki。
「は……葉ノ上さんはっ!!絨毯とかも掃除できますかぁぁぁ!!?」
「ぇ、で、出来ますが…」
視線を床の絨毯に落とし、質問の真意が読みとれないまま答えを返す葉ノ上さん。
「そ、そうですよね!うーん、有難いです!!」
「はぁ…」
天井のサキは俺が挙動不審になっている姿を見ると満足したのかニッと笑い、消えて行った。
後で塩ぶつけてやる。
絶対にだ。
「分かりました。では、採用不採用のご連絡は後日させて頂きます。」
「はい……」
「き、今日はありがとうございました。面接は以上です。」
「ありがとうございました。それでは失礼致します。」
そう言って頭を下げた葉ノ上さんの一礼はとても綺麗で、洗練されていた。
――――――
「サキこらてめえ!!!」
「あーん!だって暇だったんだもんー!!」
館内を逃げるサキを追い回しながら食塩を投げつける。
「ぎゃぁー、くーるーしーいー」
「嘘つけ!棒読みのセリフでバレバレだわ!!」
「バレちゃった」
「くっそ…」
やはり食塩では効果がないらしく、サキはピンピンしていた。
「しっかし、葉ノ上さんのあれは何だったんだろうなぁ…」
「なにがー?」
「…葉ノ上さんってお前と同族だったりする?」
「サ、キ!!」
こいつめんどくさい。
「あぁ…サキと同じ幽霊だったりする?」
「本気で聞いてる?」
「いや…だよな。座ってたし呼び鈴も鳴らしたし…」
「そうだねー」
どうでもいいように相槌を打つサキ。
そうなのだ。
葉ノ上さんは幽霊ではなかった。
でもあのぼやっとしたのは一体なんだったんだろ。
「まぁ、疲れ目だったんだろ…」
面接も残すところ二人。
いっちょ頑張りますか。
サキを追いかけ回してたら法術を調べる時間がなくなった。
―――――
ギィ……バタン。
利剣が玄関のドアを閉める音を聞いてから、葉ノ上静流は門扉で振り返る。
ジッと洋館を見つめ、スッと目を細めた。
「やはり、ここには………」
ボソリと独り言を残し、葉ノ上静流は洋館を後にした。
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