千辛万苦

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結婚してからずっと、家族一番で家庭を最優先していた母は、離婚後私を育てていくために十数年ぶりに働き始めた。 とにかく不運だったのは、引越しが高校受験の時期と重なったことだ。 当初志望校を私立校にしていた私は授業料の安い公立高校へ変更し、引越し先も費用を抑えることを一番に、同じ町内の平屋のボロアパートになった。 小さな町だ。 噂話はあっという間に広がったんだろう。 かわいそうな子。かわいそうな人。 私と母は、近所の人たちから哀れむような目で見られていた気がする。 朝から夕方まで運送屋で働き、夜はガソリンスタンドで働く母は、毎日とても大変そうで日に日に痩せていく。 それにひきかえ父といえば、変わらず大きな家に住み、派手な再婚相手を引き連れ遊び回っている姿を何度も見かけた。 再婚相手の子供たちとも数回すれ違ったことがある。 向こうはこっちに気がつくと、いつもクスクス笑っていた。 何がおかしい。何で笑うの。 毎回、掴みかかってやりたくなる衝動にかられた。 私たち家族を壊した親子が、憎くてたまらなかった。 だけど一番許せないのは、やっぱり…父だった。 大金を手にして、女に狂って。 私たちから、普通の幸せを奪った。 そんな父が、どうしても許せなかった。
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