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「えっと、七香ちゃん、だったかな?」
眉間に寄せていたシワが、その声で一瞬で元に戻った。
くるっと振り返り、満面の笑顔を作る。
「はじめまして、日野七香です」
「五十嵐です、よろしくね」
「よ、よろしくお願いします。あの、良かったらシャンパン…飲みませんか?」
用意周到に準備していたシャンパングラスを遠慮がちに差し出すと、五十嵐社長はニコリと微笑んで「ありがとう」と受け取ってくれた。
とても気の利くゆきちゃんと五十嵐社長の両サイドにいた二人は、そんな私たちを見るなりそっとその場から離れていく。
「乾杯」
そしてグラス同士をそっと当て合うと、目を合わせたまま互いにシャンパンを口にした。
良い!雰囲気、かなり良い!
「あ、七香ちゃんは仕事、何してるの?」
「えっと…」
こんな一流の人ばかりが揃う中で、自分の職業を口にするのは気が引ける。
千鶴のように弁護士だったなら、こういう時でもサラリと答えられるのに。
だけど…言わなければ話が続かない。
「保育士を、しています」
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