藍の物語

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料理は幾分か…いや、大分と巧くなってきたと自負します。料理方法は本で学びました。味はプロのシェフから覚えました。時々、お父様が家にシェフを呼び料理を作らせます。その間、私は一歩も自室から出られません。シェフが調理を終えて家から出て行くと、私は部屋から出られます。 テーブルに並べられた御馳走は、いつも美味しいものばかり。私はよく噛み締めよく味わい、プロの技を舌で覚えました。必死です。 だって、いくら本を読んで食材や調味料、調理方法を学んでも、その味が正しいかは分からないのですから。 私は出来上がった鮭のムニエルを庭のテーブルまで運びました。今日は秋と言えど暖かく、外でランチを楽しむには最適だからです。 庭には川が流れています。草花も沢山植わっています。深緑は赤や黄色に紅葉して、夏が燃え尽きて逝くような景色です。其れもまた風情。それにダリアやコスモスが綺麗な見頃。もちろん、私が手入れして育てたものです。 湯気立つ鮭からレモンバターの香りが漂い、澄んだ空気を伝って庭中へ渡りました。それを追うように、乾いた土草の匂いが鼻を掠めました。 私は秋空を仰ぎました。なんせ、この庭は蔦にまみれた高い柵に囲まれています。空を見上げると窮屈さが和らぐのです。
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