藍の物語

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ですが、心を満たせない空想は危ないのです。どれだけ自分の世界を創り出し、安心や快感を得ても、それはほんの一瞬。 寂しさに襲われては繰り返すばかり。何度も寂しさを味わうと心は壊れてしまいます。 何故、私は空想で自分の世界を創れなくなったのか? それは私が空想だけで生きてきたから。空想は現実を知っているからこそ心地良いのです。 それと…、気付いてしまったのです。 現実世界で感じる人の体温や匂いや声に、空想は敵いません…、そう、敵いませんでした。 そのことをひどく心に感じたのは、9歳の時でした。 お父様が留守のいつもの夕方、暇を持て余す私はあることに気付きました。いつもは施錠されているはずの書斎の扉が開いていたのです。 こっそり忍び込んだ私の目は一台のパソコンを見つけました。私はこれまでテレビを見たことがありません、携帯電話も知りません。初めて見る本物のパソコンに気持ちが昂りました。 齧られた林檎のマークが印されており、アダムとイブの智恵の実を連想させます。パソコンを開くための暗証番号は簡単でした。お母様の名前と誕生日、そして2人が出会った日付を打ち込んでみたところ、見事に的中。 9歳の私は、お父様以外の誰かと、何とかコミュニケーションが取れないか模索していました。 パソコンは、家に居ながらでも外の方達と繋がることが出来る、そんな機能があると本で読んだことがあったので、このチャンスを無駄にしたくありませんでした。
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