藍の物語

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私の目には自然と涙が浮かび上がり、薄暗い書斎がゆらゆらと歪み始めました。そして、9歳の私は思うのです。 あぁ…、何て気持ちがいいのでしょう。 一度に様々な感覚が、お父様から伝わり私に流れ込んできました。 じんじんと熱くなる右頬、その確かな痛み。絡み付く両腕、締め付けられる息苦しさ。密着する肌と肌、伝う涙の温かさ。鼓膜を揺らす吐息と嘆き…。 生きている人から感じる生きている実感。これは空想では得られなかったものです。私は初めて「(せい)」を知りました。 その日から少しずつ、特別な力は「特別」ではなくなってきたのです。 6歳から9歳までの私は、単に純粋な好奇心で他者との接触を望んでいました。 ですが、あの日を境にした10歳から14歳の今は、人間の温もりを感じたくて、生きている事を実感したくて他者との接触を望んでいます。 私にとっての特別な力は空想ではなく、誰かに抱きしめられることとなりました。
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