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「ほれ、緊急の時頼れる大人が一人は必要だろー?」 白いノートの切れ端を渡されて。 「俺の番号。……気をつけて行ってこい」 谷矢は言うと微笑み、秋良の頭をかき撫でた。 そのあまりに普段と違う大人らしい態度に、目を丸くする秋良。 こんなふうに愛情を持った目で他人を見るのか。 こんなふうに優しく他人の頭に触れるのか。 意外過ぎて。 自分以上とは思っていなかったけれど、少なからず他人への必要以上の干渉はしない部類の人間だと思っていた。 「何だ、その驚きに満ちた顔はー。……俺も、北上先生と同じ立場なんだよ」 「……そう、だったんですね」 何とか応えて。 谷矢の言葉を理解して、納得して。 「ありがとうございました」 唯一、谷矢だけにお礼を言い、秋良は踵を返すと走り出した。 駅に着くと迷うことなく、新幹線の乗車券を買いに行った。 片道5時間。 今の時刻は13時になるところだ。 早くても夕方。 駅から、北上が務める学校までどれくらいの距離があるかにもよる。 「……せんせい」 列車内の指定席に腰を下ろすと、秋良は小さく息を吐いた。 長い2年が終わり、ようやく卒業した。 ずっと会いたかった。 ひと時も忘れたことがなかった。 北上のいない日々は酷く色褪せていて、感情の起伏も乏しくなった。 全てがつまらなかった。 そこに北上がいたら、と考えては寂しかった。
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