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まるで言わない代わりに察しろ、とでも言いたげな瞳に苦笑して首を傾げた。
「何かな?秋良」
分からないから聞いているし、他意は無いのだけれど。
少し不機嫌そうに口をへの字にする彼を見て、笑ってしまう。
「北上せんせい」
「ん?」
自分から距離をとったくせにまた抱きしめてくるのが可愛くて。
愛おしくて。
「せんせいの寝室、案内してよ」
正直に明かした秋良の声音は色めいて、火照る北上の頬を撫でる指先は優しかった。
***
追われ続けることに疲れ、逃げるのをやめたのは中学3年の冬だった。
理事長の孫__秋良の父親も当然のごとく学園の校長を務め、いずれは今祖母が座る席に腰を下ろす。
『父さんは逆らえなかった……でも、秋良には秋良の好きなように自分の道を決めてほしい』
自分が小学6年の時に初めて引き継ぐ話が持ち上がり、その後息子を呼び出しては彼はそっと囁いた。
秘め事を零すように。
切に、願う顔つきだった。
それが何を意味しているのか、当時の秋良には理解出来なくて。
『あきら』
上品でゆったりとした柔らかい祖母の声。
幼い頃は大好きだった。
笑いかけてくれて、頭を撫でてくれる。
優しい彼女が、大好きだった。
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