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マグカップを両手に包んだまま左横に座る秋良を覗き込めば、静かに微笑みかけられてカップをテーブルの上へと移された。
そして、代わりにとでも言うように、彼の両手が北上のそれをそっと握る。
「北上せんせい。俺の話、最後まで聞いて?」
甘えるよりも諭すような口調に、大人になったんだなと感心してしまう。
うん、とぎこちなく応えた北上に満足した笑みを浮かべた秋良は、話を再開した。
「ちゃんと考えたんだ。将来のこと……1番叶えたいこと」
「うん……」
秋良の夢は分からない。
想像もできない。
だって、話をしなかったから。
「ずっと北上せんせいと居たいと思った……だから来た。一緒に過ごす為に」
ぎゅ、と手が締めつけられる。
"痛い"と言おうと思った時、それが小刻みに震えていることに北上は気づいた。
「……理事長は父さんも俺も言いなりにして離そうとしないから、その我儘を叶える代わりに俺の願いも叶えさせてもらう」
"言いなりにして離そうとしない"とは、きっと学園を受け継ぐことに関してだろう。
「それが……秋良の進路?」
北上は自然体でいるよう努めた。
「そうだよ。ねぇ、せんせい……俺は、"会いに来た"んじゃ無いからね」
「え……」
「2年前、俺が何て言ったか覚えてる?」
すぐに思い出さなくていいのに。
忘れた、と言えば流れは変わるかもしれないのに。
「"迎えに、行く"……」
北上が答えると、秋良は安心したように目を細めた。
「そう。迎えに来たんだよ、せんせい」
「……っ」
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