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嬉しいに決まってる。
今だけでなく、秋良の未来に自分がいるのだ。
「でも……っ」
この声が弱々しく震えるのは、涙がこぼれるのは、逃げられない現実を見つめているから。
理事長は、北上を解雇した張本人だ。
可愛い孫に手を出した人間がまた現れたのでは、いい顔はしないだろう。
一緒にいることを、許すはずもない。
分かりきっている現実だ。
「……せんせいは俺のことどう想ってるの?」
ゆっくりと、秋良の手の内から自分のそれを引き抜こうとすると、問いかけと共に握力が増して。
「好きだよ……」
迷いも偽りもなく即答しては、北上も握り返す。
「なら、もう何も考えず俺と一緒に来て。俺の傍にいて」
真っ直ぐに見つめてくる秋良の黒い瞳。
やっぱり堪えきれず泣き顔を背けると、強い力で引き寄せられて。
「俺はもう、せんせいを離せないし離すつもりも無いから」
泣いていいよ、と囁かれて。
北上はすがるように秋良の背中に両手を伸ばし、声を上げて泣いた。
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