14.

2/8
前へ
/160ページ
次へ
秋良が正座すると、1番に声を上げたのは祖母だった。 「お帰り、秋良」 「ただいま戻りました」 丁寧に普通礼を済ませ、一人一人と目を合わせた後、正面に鎮座する彼女を見据える秋良。 廊下には北上を待たせている。 もうすぐ春になる季節とは言え、まだまだ冷える。 長い間寒い場所に居させるのは可哀想だ。 「お伝えしたいことがあり、今日は集まっていただきました」 早速、話をしよう。 ここから先の、未来の話を。 「……僕は父と同じ大学へ進学します。少し距離があるので、近くのアパートを借りて生活します。時折こちらにも顔を出すので心配しないで下さい」 頷く父と母。 せんべいを口に含む祖父。 祖母は、手の内に収まっている湯のみの中を見下ろしていた。 ここまでは、彼女の思い通りの内容だ。 本家を出ていくことは伝えていなかったけれど、大学を経ていずれは父の肩書きを受け継ぐのだから、異論は呈してこないはず。 様子を観察していると、相手は小さくため息を零した。 「……マンションを買うから、どこの物件がいいか調べて教えなさい」 孫の安全を考えてか。 愛情のひとつか。 それとも、学園を存続させるための駒の居場所を、把握しておきたいからか。 いつまでも自分の足を掴んで離さない相手に苛立ちを覚えたが、唇を閉じて冷静になってから秋良は返答した。 「ありがとうございます。でも、何でもかんでも貴女の手を借りるのはもう嫌なんです。僕ももう子供じゃないので、自分の脚で歩かせて下さい」 祖母は黙ってしまったが、父と母の変わらない微笑が背中を押してくれるようだった。 「アパートの費用は、バイトで支払っていきます。学費は必ず返済します」 はっきりと言い切り、秋良は改めて深々と頭を下げた。 そして。
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!

106人が本棚に入れています
本棚に追加