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秋良が正座すると、1番に声を上げたのは祖母だった。
「お帰り、秋良」
「ただいま戻りました」
丁寧に普通礼を済ませ、一人一人と目を合わせた後、正面に鎮座する彼女を見据える秋良。
廊下には北上を待たせている。
もうすぐ春になる季節とは言え、まだまだ冷える。
長い間寒い場所に居させるのは可哀想だ。
「お伝えしたいことがあり、今日は集まっていただきました」
早速、話をしよう。
ここから先の、未来の話を。
「……僕は父と同じ大学へ進学します。少し距離があるので、近くのアパートを借りて生活します。時折こちらにも顔を出すので心配しないで下さい」
頷く父と母。
せんべいを口に含む祖父。
祖母は、手の内に収まっている湯のみの中を見下ろしていた。
ここまでは、彼女の思い通りの内容だ。
本家を出ていくことは伝えていなかったけれど、大学を経ていずれは父の肩書きを受け継ぐのだから、異論は呈してこないはず。
様子を観察していると、相手は小さくため息を零した。
「……マンションを買うから、どこの物件がいいか調べて教えなさい」
孫の安全を考えてか。
愛情のひとつか。
それとも、学園を存続させるための駒の居場所を、把握しておきたいからか。
いつまでも自分の足を掴んで離さない相手に苛立ちを覚えたが、唇を閉じて冷静になってから秋良は返答した。
「ありがとうございます。でも、何でもかんでも貴女の手を借りるのはもう嫌なんです。僕ももう子供じゃないので、自分の脚で歩かせて下さい」
祖母は黙ってしまったが、父と母の変わらない微笑が背中を押してくれるようだった。
「アパートの費用は、バイトで支払っていきます。学費は必ず返済します」
はっきりと言い切り、秋良は改めて深々と頭を下げた。
そして。
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