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「もうこれ以上奪われたくないっ!」
秋良は吐き捨てるように叫んだ。
ようやく手にしたのだ。
手を伸ばすことができた。
信じられる人。
愛しい人。
自分を愛してくれる人。
「誰かのせいで関係が壊れたり引き剥がされるのは、もううんざりだ……」
1年前の5月に起きたトラウマの根元も。
ホテルの1件に始まり、北上と離れ離れになった過去も。
もう、二度と味わいたくない。
「……」
少なからずこの悲痛な思いが伝わったのか、祖母はまゆを中央に寄せつつも口を噤んだ。
束の間。
僅かに見開いた彼女の瞳が自分の隣を見つめているのに気づき、秋良は北上を伺った。
「……っ」
正座で、しっかりと額を畳に押し付け深々と頭を下げる姿。
まるで許しを請うような、誠実でいて胸を痛める光景だった。
「……せんせい」
秋良は彼の右手に自らの左手を重ね、改めて祖母へと視線を移した。
もう十分伝わっただろう。
どれほど本気なのか。
覚悟を持った上での行動か。
気に食わないなら追い出せばいい。
その代わり自由に生きる。
生きてみたかった__。
「最後に……理事長。これから僕に関わる問題が起きても手を出さないでください。孫だから、などと責任を他人に着せて権力でもみ消すことは辞めてください。特別扱いは要りません」
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