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*** 『分かりました。……秋良は校長先生と私とで話すことがあります。北上先生は客間でお待ちください』 そんな理事長の声で話はひと段落し、秋良の母親と祖父とともに廊下に出た北上は侍女に案内された。 突き当りを右に、次に左にまた左にと歩くものの、目的の部屋は遠いようですぐには着かなかった。 「こちらになります」 そう言って侍女が襖を開けるが、どこも似たような柄のそれや廊下の景色に北上はすっかりここまでの道のりが分からなくなり、彼女に感心する。 「ありがとうございます」 礼をして入室する。 畳の香りと、奥にはさっきとはまた違う庭の風景が広がっていた。 普段の生活音や喧騒から切り離されたように、とても静かで落ち着く空間。 円卓の側にあった座布団に腰を下ろすと、緊張による疲れからか急に眠くなってきた。 「……ぁふ」 欠伸をして目をこすり、思いっきり伸びをする。 いつまで待つかもわからないし、テレビもないしこれと言ってすることもない。 卓上に伏せて寝てしまおうか、などと考えていた時。 「北上先生。襖を開けてもよろしいでしょうか?」 初めて聞く女性の声。 柔和で澄んでいて、何となく秋良の母親な気がした。 「どうぞ」 居住まいをただし、正座して構える北上。 顔を見せたのは予想通りで、白のブラウスとピンクベージュのロングスカートという装いだ。 優しい目で北上を見つめると会釈をし立ち上がって室内へと来る相手。 責め立てられることはないだろうと思いながらも、身体が強張るのは言うまでもない。 「くつろいでいるところ、ごめんなさい。せっかくだから、少しくらいお話ししたいと思って……」 「いえ、こちらこそ……わざわざ来ていただいてすみません」 瞳の色が、長いまつげが、黒く艶のある髪が秋良と類似している。
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