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把握したうえで受け止め、今話しているのだ。
”お願いね”
そう、明確に託し許したのだ。
「私ね、秋良が幼稚園に編入した時心配でいろいろな質問をしたの。”楽しい?”とか”友達で来た?”とか……帰りたがらない様子からして馴染んでいることは分かるのに」
懐かしむように、彼女は中庭を遠目に眺めながら続けた。
「卒園が近くなって、何気なく聞いたの。”好きな子、できた?”って」
なんて答えたと思う?と、母親の眼差しで問いかけては、一息吐いてから彼女自身で正解を言った。
「”僕はキスをしてきた”って。”十字架の前でキスをすれば、ずっと一緒にいられるんでしょう?”って……結婚式の真似事を、仲良しだった男の子と。施設内の教会で」
幼心に離れ離れになることを察していたのだろう。
「可愛いでしょう?……その時に納得したの。誰が何と言おうと、秋良が幸せならそれでいいって……」
手を出して、と言われ従うと、以前秋良が進路についての話をした時と同じように両手を包まれ、改めて親子なのだと感じる。
「だからね。あの子が貴方を私たちに紹介してくれた時も驚かなかった。寧ろ、それだけの覚悟ができるくらい大切な人を見つけられたんだと感動したわ」
ほんの少しだけ、手の力が増して。
それは、背中を押すような。
「私は秋良と貴方の味方だからね。2人が幸せになれるのなら、何も止めない。だからどうか、最期まで一緒にいてあげて……っ」
彼女も泣いていた。
心から応援はしていても、不安や心配、葛藤が尽きないのだろう。
秋良の幸せを願っていても、そこには新しい家族が、家庭が築かれることを夢見ていたはずだ。
北上と一緒に生きていく以上、それは叶わない。
この肉体は女性ではないから、身籠ることは出来ない。
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