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彼女の言っている事がわからなかった。
自分に、二人きりになる理由は思いつかない。
もしかして、気づかないところで彼女を怒らせていたのだろうか。
下校以外だと、二人と自分とでクラスが違うため滅多に顔を合わせる機会がない。
『何か、したっけ……』
相手を見つめて問いかけるが、彼女は足元を見下ろしながら自分に近づいてくるだけで答えてくれない。
『あのね』
そう言って顔を上げた時には、自分の目の前に立っていた。
『私、__君のこと好きなの。彼氏よりも……』
自分の胸に縋り付いてくる彼女の小さな両手。
やけに顔の距離が近いと思ったものの、相手の台詞に頭がついていかず身動きがとれなて。
されるがままにキスを受けた束の間、前方でガタンと机が揺れる音が教室内に響いた。
自分から離れた女が振り返れば、自然と視界が開けて何が起こっているのか目で理解出来る。
『な、んだよ……それ』
信じられないと瞠目していた人物は、自分に良くしてくれていた彼であり、女の恋人だった。
『ち、が』
『違うの!私は嫌って言ったのに、無理やりされて……っ』
自分の震える唇が言葉を発するより前に、女が甲高い声でヒステリックに叫ぶ。
さっきと同じように彼に縋り付いた女は、大きく肩を震わせて嗚咽を零した。
彼は、その嘘つき女を優しく抱き締め、確かめるような目で自分を見る。
『……っ』
違う。
その女が言ったことは嘘だ。
自分が好きなのは、女じゃない。
分かってよ。
いつも見てた。
話しかけられるだけで嬉しかった。
目が会うだけで幸せだった。
自分が好きなのは、君なのに。
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