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「……結?」
ヒロ君の声にハッと現実に引き戻された。
「あ、……えっと……何?」
「着いたぞ」
ヒロ君は笑いながらスーツケースの取っ手を私に手渡し訊ねた。
「いつまでコッチに居るんだ?」
「どうして?」
「明日、時間あるかな、と思って」
「昼間迄は用事があるけど、夕方以降なら大丈夫」
「じゃあ、夜、一緒に花火大会に行かないか?」
「……花火……ーーあっ!」
秋口に花火大会があったのを思い出した。
「明日の18:30頃、今日、俺が声を掛けたあの橋の上で待ち合わせ。どうだ?」
ヒロ君と一緒に花火を観たかった私は頷きつつ気付く。
「……私、浴衣、持ってきてないっ!」
こんな風にヒロ君から誘われることが初めから分かっていたらスーツケースの中に浴衣一式入れたのに……と悔やんだ。
「突然、誘ってるのに逆に浴衣を持っている方があり得ないから。そんなの別に構わないよ」
ヒロ君はくっくっと笑った。
「折角、ヒロ君が誘ってくれたのに……」
幼い頃の3歳差は大きかった。
私がココに居た当時、ヒロ君が私一人をこんな風に誘ったことはなかったし、妹同然の私如きがヒロ君と二人で花火を観に行くなんてあり得なかった。
「結が浴衣を着てても着てなくても側に居てくれたら、それだけで俺は満足……それじゃダメ?」
昔のヒロ君からは一度たりとも聞いたことのない台詞に私の顔は瞬時にして赤くなった。
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