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翌朝。
ガラガラガラガラ――――。
スーツケースを引き摺り、私は薄暗い中、歩いていた。
橋の向こう側にある駅に行く為だ。
土曜日の夕方に来た時と似た風景だったが時間帯が違った。
あの時は夕方だったが、今は明け方だ。
しかし、視界に入って来る空の色も景色も殆ど変化は無かった。
「……帰るのか?」
橋の途中まで来た時、背後から声を掛けられた。
振り返らなくても今度は声で確信する。
ヒロ君、だ。
「今日から仕事。始発に乗ったら間に合うから今日戻ることにしたの」
どうしてもヒロ君と一緒に花火大会に行きたくて帰宅する日を延ばしたのだ。
不安で彼の顔を見れず、私は振り返らずに返事する。
「そうか」
「ヒロ君は早朝から私のこと、お見送り?」
「……ああ」
「又、来るよ。ヒロ君に会えるなら。何なら毎週でも!」
湿っぽくならないように私は元気良く振り返り、ヒロ君に笑顔で言った。
ヒロ君は頭を左右に振り優しく笑う。
「無理するな」
「無理じゃない。この6年を埋める位、ヒロ君に会いたいのっ!」
私の心からの正直な気持ちだった。
「いや、無理だろ」
ヒロ君は笑いながら、こちらに向かって歩いてくる。
「確かに毎日は仕事があるから無理……だけど……。そうだ!又、ココに私が越してくればーー」
「始発に乗って毎日通勤する気かよ」
呆れた声で言いつつ、目の前のヒロ君は温かい表情で笑っていた。
「いいじゃない別に!それだけ私は会いたい!」
「倒れるからやめておけ」
「体力だけは自信ある!倒れたりなんてしないっ!」
「……俺は結に元気でいて欲しい、よ。これからもずっと……」
「……私はーー」
「ん?」
「ヒロ君とずっと一緒に居たい……」
生まれて初めてヒロ君に伝えたかった言葉を口にした。
「……」
「……駄目……?」
目の前に立つ彼を私は恐る恐る見上げた。
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