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「駄目、だ」
キッパリと拒否された。
「どうして!?」
半ば悲鳴に近い叫びが口から飛び出る。
「結。お前が6年間一度も寄り付かなかったこの街に来た目的は?」
「……」
言葉にしたくなくて、私は唇を噛んだ。
「黙っても無駄だ。俺の……七回忌の為に来たんだろ?お前は……通夜も告別式も……三回忌ですら参加出来なかったから」
「……知って、た、……の?」
言葉を絞り出すと、穏やかに微笑むヒロ君と目が合う。
スーツケースの中身は喪服で、昨日の昼は法事に参加していた。
「俺のことなのに俺が知らない訳がないだろう」
半ば呆れた声で言われた。
ヒロ君と出会うのは必ずこの橋の上で、時間は黄昏時だった。
あの世とこの世。
橋のこっち側とあっち側。
一瞬の狭間で合わさった幻想。
黄昏時とは、誰ぞ彼時。別名【逢魔が時】とも呼ばれる。
誰なのか分からず、魔物に遭遇する時間帯。
魅せられた幻影。
(【魔】でも良かったのに……)
私の目からツツっと涙が零れ落ちた。
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