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次第に空に色んな色が混じり出した。
夜が明ける。
「……ヒロ君に逢える【魔】だったら囚われてもいいって思ってた」
「莫迦」
「……うん」
ヒロ君は呟くように付け足す。
「……一度」
「え?」
「一度だけ結のこと抱きしめてもいい?」
「勿論」
「……ありがとう」
ヒロ君は私の身体をふわっと包み込むように抱いた。
そして、より強くぎゅっと抱き締め直す。
体温があるような無いような、存在があるような無いような。
不思議な感覚に手を握り締めた。
「……俺、結のこと好きだった」
「私もヒロ君のこと大好きだった。だから、一度だけじゃなくこれからもーー」
「駄目。結は生きていくんだから」
「それでも……、私、ヒロ君と一緒に居たい……」
心の奥底から漏れ出る言葉と共に私の涙は溢れ出した。
ヒロ君は身体を離し、私の涙を拭おうとする。
しかし、その手は涙を拭うことは出来ない。
朝日と共に光の粒となっていく手を見て、ヒロ君は苦笑した。
お別れの時間、だ……。
「結ーー」
「じゃあ、私が天寿を全うした時にお迎えに来て」
「……結の旦那さんになる人と鉢合わせしたら嫌だなぁ……」
しみじみと言われた。
「そんな人いないしっ!」
「作れ」
「……その人に事故のこと全て話す。受け入れられる人じゃないと無理と思う」
「結、あの事故は結のせいじゃないよ」
「え……?」
突然の告白に私の頭は固まった。
「結とちぃを助けた後で、横転した車内にいる人を助けようとして失敗した。それが真実。ドライブレコーダーも当時は無かったし結を助けたせいになってたから伝えに来た。遅くなってごめん。23歳の結とデートが出来て嬉しかった」
次々に光の粒となって、霧散していく身体。
「……会いに。伝えに来てくれてありがとう、26歳のヒロ君」
最後に極上の笑みを私の中に残し、ヒロ君は再び私の前から消えた。
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