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「……久し振り」 突然、橋の上で前方から歩いてくる人に声を掛けられた。しかし、視力が悪い私は、その人の顔が良く見えずに目を細める。 (……誰?) 「(ゆい)、元気にしてたか?」 「……」 夕焼け空が次第に夜へと変化していく時間帯も手伝ったのかもしれない。 声を掛けてきた男性の方向から空が次第に暗くなっていっているせいか、鳥目の私には彼の姿がよく見えなかった。 誰か分からず無言でいると、物凄く不機嫌そうな声が返ってきた。 「……おいこら、無視すんな。いくら久し振りだからって、まさか幼馴染の俺の顔を忘れたとは言わせねぇぞ」 (……まさかーー) 驚きつつも私は彼の名を呼んだ。 「……もしかして、ヒロ君?」 「何だよ、その『もしかして』って。俺以外に誰が居るんだ?お前のこと呼び捨てにするヤツなんて、この街には他にいねぇだろ?」 そう言いながら、ヒロ君は私の前に立った。 私は彼を見上げる。 私よりも20cmは高い身長。 少し癖のある黒い髪。 彼の性格を表しているかのような優しげな瞳。 鼻筋は通っていて唇は薄めだ。 全てがヒロ君そのもので、私は呆然と彼を見詰めた。 すると、ヒロ君は私がガラガラと引いていたスーツケースを奪い取るようにして手に取った。 「……え!?いいよっ!そんなことするタイプじゃないでしょ?」 「そういうことするような歳になったんだよ。一体、何年前の話をしてるんだ?」 「……6年前。だから、社会人1年生になったよ」 「へぇ……俺は今年で……4年目……か?社会人生活はどうだ、後輩?」 「それなりです、先輩。ーーってなんか変な感じ」 お互いに言い慣れず聞き慣れない言葉に二人で笑ってしまう。 「だな。結と学校で被ったことは一度もねぇんだよなぁ。3歳差だから。自分で言っててなんだけど、お前とは先輩後輩っていう感覚は正直、全く無いんだよ」 「私も」 「引っ越してから来るのは久し振りだろ?何年ぶり?」 「……やっぱり6年ぶり……かな。高2の時だから」 「もうそんなになるのか。就職先はどうだ?」 「測量系の事務所に勤めてる。仕事に慣れるのに必死。でも、社内の雰囲気は良いし楽しいよ」 「そりゃ良かった」 ヒロ君は私の歩調に合わせて歩いてくれた。 橋を渡り切った先に、ヒロ君の家と私の昔の家がある。 「今日はどこに泊まるんだ?」 「叔母さん()」 「了解。じゃ、柳川さんの家の前まで送ってやるよ」 「……ありがとう」 少しでも長くヒロ君と一緒に居たかった私は、彼の言葉に素直に甘えることにした。
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