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翌日18:30。 私はヒロ君との待ち合わせ場所である橋の上に居た。 ココから花火が良く見えるのか、昨日とは違い大混雑だ。 (……どうしよう。この人混みでヒロ君を見つけられる?しかもーー) 今になって私は、ヒロ君と連絡が取れないことに気付いた。 6年前の彼の番号は私のスマホに残ったままだったが、この番号が未だに使用できるとは思えなかった。 辺りは薄暗くなり始めている。 (たれ)ぞ彼ーー今の時間帯を表す【黄昏(たそがれ)】の語源だ。 誰なのか見えず分からなくなる時間帯。 まだ寒くはない季節なのに、ぶるっと身震いした。 自分の存在を確かめるように両腕で身体をぎゅっと抱き締める。 すると、背後から肩をとんっと叩かれた。 「こんなに人が多いとは……」 振り返ると、苦笑したヒロ君が立っていた。 # 「……ヒロ君に二度と会えないかと思った」 花火大会が始まり暫く経った頃、私は呟くように言った。 橋の欄干に手を乗せつつ、川の先の方で上がる花火を見詰める。 怖くてヒロ君の顔が見れない。 「大袈裟だな」 ヒロ君は私の隣に立ち呆れたように笑う。 だけど、私は彼と同じようには笑えなかった。 ヒュル――――。ヒュ――――。ヒュルル――――……。 息つく間もない程、次々に花火が上がる音が聞こえる。 暗くなった空に赤や緑、黄色や青などの色彩豊かで大振りな華々が絶え間なく咲いては消えて行く。 大小様々、五彩の華が幾重にもなって順に開かせるもの。 柳のような形になって消えていくもの。 風変わりなハートマークもある。 いつの間にか、私もヒロ君も無言で花火に見入っていた。 真っ暗闇の中、黄金色の大輪の華々が一気に相次いで次々と咲き誇っていく。 フィナーレ……だ。 最後の花火が消え、辺り一面が闇となった。 すると、両岸でも橋の上でも一斉に色んな色のペンライトやスマホのライトが(とも)り出す。 花火師さん達へのお礼で、皆が一斉に手に持ったライトを振り始めたのだ。 私も鞄の中からスマホを取り出し、ライトを付け振った。 花火とは異なる幻想的な光の世界が視界一杯に広がった。 「……ありがとう。誘ってくれて」 「俺も結と一緒に見れて嬉しかったよ」 生まれて初めてヒロ君と一緒に見た光景は、とても美しかった。
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