みかん

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みかん

とても、とても良い香りがする。 あたたかな香りです。 私はそれを思い出すと… 今でも胸がギュッとなる。 これは…いったい何だろう。 私はいつも浅い眠りについていて、気になっては、そおっと目蓋を上げる。 瞳に映るは畳みとベランダの窓から差込む光。 ありふれた日常の光景。 しかしながらとても尊いものだった。 畳みを反射してその熱が瞳へと流れると、私は目蓋を閉じた。 視覚を失うと、不思議なことに人の身体は勝手に他の機能を呼び起こす。 嗅覚や聴覚、とても心地よい音と声、そして香りが私自身の存在を証明してくれる。 ああ、このギュッとなるこの感情は何だろう。 切ない、いや違う。嬉しい、いや違う。 ごちゃ混ぜのカラフルな絵具のような感情。 ただ一つ分かったことは黒では無いということ。 白でもなくて、赤でもなくて、金色でもない。 光の色。 しかし、理解したところでもう何の感情かを問うことがなくなった。 何故なら名をつける必要があるのかどうか疑問に思った。 人は目に入るもの、耳にするもの、嗅ぐこと全てに集中することは出来ない。 近づくことが出来ても完全には至らない。 それで良いのでしょうか… そもそも良いも悪いも無いかもしれない。 だって、未完成なものが人間だもの。 だから人は完成されたものを望むのかしら。 あぁ、とっても良い陽だまりの香りだわ。 光の声が心地よく私を呼んでいる。 あなたは、そのままで良いのよ。 好きになさいな。 心はいつだって自由でいられるの。 そうして好きに羽ばたいて… 光に包み込まれていく。 とても、とても良い香りがする。 あたたかな香りです。 気持ちがよくて目蓋をそっと開けた。 という、夢をみた少女がいた。
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