1人が本棚に入れています
本棚に追加
朝一の体育、2時間目の数学、そして3時間目の国語が終わる頃、コーンスープだけしか入っていなかった俺の腹はいよいよ空いてきた。
授業終了のチャイムと共に、広斗と連れ立って購買に向かう。
今日は一番好きなカツサンドが売り切れていないことを願う。
一番人気のローストビーフサンドは端から捨てていると言うのに、最近はカツサンドですら手に入らないことがある。
いつも大量にあんぱんが残ることはわかっているのだから、その分ローストビーフサンドとカツサンドを増やしてくれればいいのに、と思うのだが、一向にそうなる気配は見受けられない。
早足で廊下を歩いていると、丁度2組の教室から飛び出してきた高瀬とぶつかった。
それに驚く暇もなく、「待て、コラ!」と野太い声がして、迫力のある巨体を揺らした女子が向かってくる。
高瀬は走り出しながら、こちらに振り返って「ごめん、松山!」と顔の前で手を合わせた。
そのまま、購買に向かう生徒たちの波の中に消えていく。
俺はその場に立ち止まったまま、たった今起こった出来事に軽い衝撃を受けていた。
高瀬とは入学してから今の今までろくに会話をしたことすらない。
ただでさえ友達の多い高瀬があまり目立つ方ではない俺の存在を認識しているなんて普通に考えたらあり得ない。
それなのに、高瀬は今確かに俺の名前を呼んだ。
間違いなく「松山」と口にした。
高瀬を追いかけていた女子がチラリと俺に視線を寄越す。
あからさまに大きなため息を吐いてから、また教室へと引き返していく。
「お前、高瀬と接点なんてあったの?」
隣にいた広斗が不思議そうに首をひねる。
「いや、ない」
俺も一緒に首をひねる。
何度考えても、どんなに記憶を探っても、何も出てくるはずはない。
委員会はもちろん、文化祭や体育祭でもとくに会話をしたことすらない。
一度や二度、転がってきたボールを蹴り返したとか廊下ですれ違ったことくらいならあったかもしれないが、それで名前を覚えられるとは考えにくい。
最初のコメントを投稿しよう!