1人が本棚に入れています
本棚に追加
2組の教室の前で数分立ち止まっていたとは言え、そんなに遅れを取ったつもりは一切ない。
それでも購買に並んだ商品の中から、今日もカツサンドは消え去っていた。
仕方なく代わりの焼きそばパンを手にして、俺は広斗と共に教室へと引き返す。
2組の教室に差し掛かった時、思わず中に視線をやってしまう自分がいた。
少なからず体に力が入っている。
が、俺の心配をよそにそこに高瀬の姿はなく、黒板の前で女子たちが楽しそうに弁当を囲んでいるだけだった。
心の中でほっと息を付く。
視線を前に戻そうとした時、ふと女子たちの向こうで1人、弁当を食べている男子に目が止まった。
整った顔立ちに、すらりとした体型。
テレビで見かけるイケメン俳優の中にいても何らおかしくない榎本功士郎は、相変わらず今日も1人でカフェに出向いたかのような雰囲気で弁当を食べている。
その佇まいからは学校生活を1人で送ることへの危機感とか恐怖みたいなものが一切感じられない。
気を張っている様子もなく、どこまでも自然体で飾り気がない。
榎本は入学当初から誰とも馴れ合わず、話しかける人間とも必要最低限の会話しかしないことで知られていた。
もちろん、その容姿を女子たちが放っておくはずもなく、入学当初は囲まれたり、追い回されたりしている姿を散々見かけた。
しかし奴はどんなに囲まれようと追い回されようとプライベートな質問には一切答えないし、呼び出しにも応じない。
言い寄ってくる女子たちとは徹底的に距離を取るスタイルで、今の立ち位置を手に入れた。
最初のコメントを投稿しよう!