Beatrix -ビアトリクス-

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傘を差したネズミの絵が画面から消えると、優しい微笑みを浮かべた清楚な女子アナが現れた。 くりっとした目に、いい香りのしそうなロングヘアー。 俺の気力を少しだけ持ち上げる毎朝の癒しだ。 今日も相変わらず可愛いななんて思った瞬間、マグカップを持った親指に熱湯を付けられたような刺激が走った。 「あちっ」とカップを置くと、右手に持ったままのスプーンからまた1滴、今度はテーブルの上にスープが垂れる。 「何やってるのよ」と母のため息交じりの声がする。 次の瞬間には布巾が手元に投げられ、俺はそれで指とテーブルに垂れたスープを拭いた。 「もういい加減、その効率の悪さ、何とかしなさいね。テレビか食事かじゃなくて、テレビにも食事にもどちらにも気を配るの」 「わかってるよ」 うるさい小言が始まる前に、体ごとテレビの方に向き直る。 もうこれ以上聞きたくないと言う意思表示のつもりだったが、そもそもそんなことで口を閉じるやわな相手ではない。 「これから社会に出てそんなだとね、仕事もろくに任されなくなるわよ。 もう子どもじゃないんだから、何でもそつなくこなせるようになりなさいっていつも言ってるでしょ? 秋菜(あきな)を見てごらんなさい」 体をテレビに向けてしまったせいで、すでに綺麗に片付けられた隣の席が嫌でも目に入ってくる。 そこは主が不在の時でも何だか俺の席より一段も二段も輝いて見えた。 「勉強も部活も遊びも何でもそつなくこなして、時間を有効に使えてるでしょ? それなのにあんたはダラダラダラダラ……」 「はいはい、もうわかったから」 たまらず会話を切り上げる。 朝からそんな説教を続けられたら、ただでさえない俺の気力がゼロを下回ってマイナスになってしまう。
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