Beatrix -ビアトリクス-

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今日も遅刻ギリギリで玄関を出た俺は、脇に停めてあった自転車に飛び乗り、今出せる限りの全速力で学校へと向かった。 一駅先の学校へは急げば10分程度で到着できる。 その近さがまた急ぐ気を緩ませる要因でもあるのだが、通学時間が短くて済むと言うのはそれこそ効率的なのではないかと俺は思う。 母に言わせれば、家から近いと言う理由だけで高校を選ぶのは効率的とは違うらしいけれど。 小言の苛立ちでペダルを漕ぐ足に力が入っていたからかもしれない。 校門前に到着した時、始業のチャイムまではまだあと10分ほどの余裕があった。 急げば10分と言う概念が塗り替えられたかもしれない。 明日からの朝の時間にもう5分の余裕が出来た。 「松山、今日は早いな」 校門に立っていた体育教師の小堀(こぼり)が腕時計を見て、驚きの表情を浮かべる。 26歳で女子たちから人気のある小堀はやはり今日も朝から爽やかだ。 俺だってやる時はやるんだと言う意味を込めて誇らしげな笑みを向けたところ、「明日からもこれぐらいに到着できるといいんだけどな」と呆れた様子でため息を吐かれる。 「努力します」なんて笑って返したものの、多分、明日からはまた遅刻ギリギリの到着に戻る。
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