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「聞いた? 5組の大岡の話!」
俺が「知らない」と答えると、広斗はまるでこうして話すことを昨日から待ちわびていたかのように興奮気味に続けた。
「テニス部の白石に告白したんだけど、フラれて、そのまま死ぬって言い出したらしいぜ? サッカー部の寺島たちが丁度居合わせて何とか止めたらしいんだけど、付き合ってもいない女をそこまで愛せるもんなのかね。俺にはわかんねぇな」
広斗はいぶかし気に首をひねる。
俺の16年の人生の中で、一度でも彼女がいた経験があるのなら、こんな時、何か答えることが出来たかもしれない。
そんな経験はもちろんのこと、まともな恋すらしたことがないのだからどうしようもない。
もちろん恋心を抱いたことくらいはさすがにある。
中学1年生の時に隣の席の子、3年生の時に同じ塾に通っていた子、けれど、どちらも告白なんて言うレベルには行かないうちに、他の男のものになってしまった。
そこから奪ってやろうと言う図太さは残念ながら持ち合わせていない。
そもそも俺がそう考えたところで、女の子たちは俺のことなど少しも眼中にないだろう。
「ま、彼女いない歴イコール年齢の春太くんにはわからないか」
「うるさいよ」
むっとして言い返すと、彼は爽やかに笑って、「早く奪っちゃえよ」なんて言う。
もうそれに反応することにも疲れて、俺はあからさまにため息を吐いてやった。
「あ、怒った?」
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