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「今日のごちそうを多く買いすぎてしまって。うちは三人しかいないので」
と男に差し出しました。
「いやいや、そんな」
断ろうとした男のお腹が、また大きく鳴りました。
男は恥ずかしそうに箱を受けとると、子供たちに手を振って帰っていきました。
さて、ケーキの箱の中では、
「ふうー、なんとか家に着いたみたい」
ケーキの上のパンダが、スポンジに埋まったサンタをすぽん!と引っ張りだしました。
それから、クリームだらけになった天使の顔を拭いてやり、
「さあ、ちょっとでもケーキらしくしなくっちゃ!」
と崩れたクリームを広げて直し始めました。
箱の外では夕食の準備が始まったようです。シッターさんとママが買ってきた香ばしい唐揚げの匂いや、グラタンのチーズの香りが流れてきます。
サンタと天使も、星とモミの木を元の位置に運び、まっすぐになるように立てました。
「仕上げは私たちの立ち位置ね。私が真んなかだったはず」
パンダが勝手に陣取ります。
「おいおい、サンタが主役に決まっておる!」
「いやいや、クリスマスだぞ。主が遣わした天使が主役だ」
みんなが押し合っていると、カサカサと紙袋に触れる音がしました。
ママがそっとケーキの箱を引き上げ、テーブルへ運んでいきました。
「さあ、ふたりが頑張って運んでくれたケーキを食べましょう」
箱からケーキを台座ごと取り出すと、
「あらら……少し崩れてる」
ママは苺の位置を少し直しました。クリームの飾りはほとんどつぶれていましたが、中央に折り重なった3つの人形に、ふたりは大喜びでした。
「パンダちゃんだ!」
「サンタさんと天使もいるね!」
「食べるのがかわいそうだから、お皿に飾っておきましょう」
ママはケーキ用のお皿をひとつとってきて、彼らを上手に載せました。
ケーキはひんやりとして、生クリームとスポンジがふわふわで夢のような味でした。
ふたりは、クリームをほっぺたにつけ、甘い苺を頬張りました。
食事のあと、片づけを済ませると、ママも疲れてすぐに眠ってしまいました。ママにとっても今日はとても忙しい一日だったのです。
それでつい、キッチンの明かりをひとつ、消し忘れてしまいました。
もしも、誰かが夜中に目が覚めたなら、小さく灯った明かりのなかで、何やらにぎやかな気配を感じたことでしょう。
声はお皿の上から聞こえてきます。
パンダの美しい歌声に、サンタと天使がやんやの喝采を送っていたのです。
夢をかなえたパンダの笑顔は、本物のスポットライトを浴びたように、きらきらと輝いていました。
(おしまい)
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