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「いらっしゃいませ」
白い帽子のおばさんが言いましたが、ふたりの姿は見えていませんでした。何しろ、目の前には白いケーキの箱がうずたかく積み上げられているのですから。
箱の中身はもちろん、クリスマスケーキです。真っ白なクリームはふかふかのスポンジを覆い尽くして、春を待ちわびる新芽のようにツンツンと模様を描いていました。プラスチックのツリーとチョコの星の間には、メリークリスマスと書かれたクッキーのプレート。その前には砂糖菓子で出来た人形たち。サンタクロースとパンダと天使がいます。
箱の中は、そんな人形たちのおしゃべりで溢れていました。
「ねえねえ、あたしたち、次みたいよ」
とパンダは頭上が少し明るくなったのをふりあおぎました。箱には、てっぺんにドーナツを半分に分けたような切り込みが入っていて、そこを折って立ち上げると持ち手になります。パンダやサンタたちから見ると小さな虹型の窓が、天井にふたつ、開いたように見えるのでした。
「まだまださ」
と天使が言いました。
「まだ冷蔵庫から出してもらったばかりじゃないか。お金を払ったり、袋に入れたり、まだまだご主人の手に渡るのは先さ。去年もそうだったろう」
天使は去年のことをよく覚えているようです。ケーキの上のお菓子たちは、子供たちのお口に飛び込む瞬間に魂は天に召され、またお菓子の人形として生まれ変わります。
「パーティは今夜かな。明日かな。25日が正式だけど、今日やるおうちも多いからな」
サンタがクリームを片足で蹴飛ばします。
「今日だといいね。早く外の景色を観たいな」
パンダも足元のクリームを小さく丸めて投げました。それが天使の翼をかすめたので、天使がじろりとパンダを睨みました。パンダはちっとも気にしません。
「素敵よね、外はいつも。ケーキ工場と違って、明るくて、暖かくて。あたし、毎年思うの。パーティの最後、あたしにスポットライトを誰かあててくれたら、張り切って歌うわ」
「パンダはクリスマスに関係ないだろ? なんでここにいるのかさえ分からんのに、スポットライトなんて当たらないよ」
天使が意地悪を言います。
「あら、失礼ね。ここにいるのは、かわいいから。男の子も女の子もパンダは好きよ」
パンダはココア色の鼻先をつんとそらせて見せました。同時にぐらっと箱が動いて、みんな尻もちをつきました。
「あいたた。どうやらご主人さまが決まったようだ」
サンタは体を起こしながら窓を見上げました。
「どんな子供のいるおうちだろう? いたずらっ子はごめんだな」
天使は心配げな顔をして、耳をすましています。
三人の載ったケーキの箱は、ケーキ屋のカウンターに運ばれていきました。
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