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サンタは頭を抱えます。天使も肩を落としましたが、
「外は寒いし、仕方ないよ。ケーキ屋で借りたらいいんじゃないか」
と腕をひろげました。パンダが、
「そうね、一番近いし。簡単だわ」
と言った言葉にかぶせるように、ゆうくんの声が響きました。
「わかった、じゃあ橋のところのトイレまで、もうちょっと待ってね」
ゆうくんは何度かママとケーキ屋さんに来ています。橋を渡らずに下をくぐる道の方へいくと、公衆トイレがあるのを知っていました。
「うん」
ふーくんは、もじもじしながら頷きました。
音楽家の男は、いま話しかけたらきっと驚いてもらしちゃうだろうな、と考えました。マフラーを返すのは、弟のトイレが済んでからがいいでしょう。
兄弟はまた、歩き出しました。ふーくんはおしっこを我慢しているので、なかなか前へ進めません。
ゆっくりペースで進む間に、箱の中はではみんな元の位置に戻りました。
「大丈夫かなあ、ケーキ屋で借りたほうがよかったんじゃないのか」
サンタは髭を撫でて言いました。パンダも不安げに窓を見上げます。外はすっかり暗くなったようです。
「本当ね。歯がゆいなあ。ねえ、次もしピンチになったら私たちが助けちゃダメかしら?」
「ダメだ。すべては主の思し召しだ」
天使が当たり前のように言いました。
我慢しいしいやってきた橋のたもとで、ふーくんとゆうくんは途方にくれてしまいました。トイレは黄色い柵で囲われていて、電気もついていません。ヘルメットをかぶったおじさんが、お辞儀をしているイラストが貼られています。
「こ、う、じ、ちゅ、う」
ゆうくんが読みました。
「もう、でちゃうよー」
ふーくんの目に涙が滲みます。
「ええと、ええと……じゃあ、川にしちゃおうか」
ゆうくんは焦りながら、ふーくんの肩からケーキのひもをはずし、自分ひとりで持ちました。
「こっち。あそこの柵の隙間から」
川沿いの広い遊歩道へ、ふーくんを連れて行きました。ケーキの箱は川と道を隔てる欄干のなるべく太い所に載せて、手で支えます。犬の散歩の人がたくさん通っていきますが、こっちは緊急事態です。
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