ケーキの箱は大さわぎ

6/10

32人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 サンタは頭を抱えます。天使も肩を落としましたが、 「外は寒いし、仕方ないよ。ケーキ屋で借りたらいいんじゃないか」  と腕をひろげました。パンダが、 「そうね、一番近いし。簡単だわ」  と言った言葉にかぶせるように、ゆうくんの声が響きました。 「わかった、じゃあ橋のところのトイレまで、もうちょっと待ってね」  ゆうくんは何度かママとケーキ屋さんに来ています。橋を渡らずに下をくぐる道の方へいくと、公衆トイレがあるのを知っていました。 「うん」  ふーくんは、もじもじしながら頷きました。  音楽家の男は、いま話しかけたらきっと驚いてもらしちゃうだろうな、と考えました。マフラーを返すのは、弟のトイレが済んでからがいいでしょう。  兄弟はまた、歩き出しました。ふーくんはおしっこを我慢しているので、なかなか前へ進めません。  ゆっくりペースで進む間に、箱の中はではみんな元の位置に戻りました。 「大丈夫かなあ、ケーキ屋で借りたほうがよかったんじゃないのか」  サンタは髭を撫でて言いました。パンダも不安げに窓を見上げます。外はすっかり暗くなったようです。 「本当ね。歯がゆいなあ。ねえ、次もしピンチになったら私たちが助けちゃダメかしら?」 「ダメだ。すべては主の思し召しだ」  天使が当たり前のように言いました。  我慢しいしいやってきた橋のたもとで、ふーくんとゆうくんは途方にくれてしまいました。トイレは黄色い柵で囲われていて、電気もついていません。ヘルメットをかぶったおじさんが、お辞儀をしているイラストが貼られています。 「こ、う、じ、ちゅ、う」  ゆうくんが読みました。 「もう、でちゃうよー」  ふーくんの目に涙が滲みます。 「ええと、ええと……じゃあ、川にしちゃおうか」  ゆうくんは焦りながら、ふーくんの肩からケーキのひもをはずし、自分ひとりで持ちました。 「こっち。あそこの柵の隙間から」  川沿いの広い遊歩道へ、ふーくんを連れて行きました。ケーキの箱は川と道を隔てる欄干のなるべく太い所に載せて、手で支えます。犬の散歩の人がたくさん通っていきますが、こっちは緊急事態です。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加