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「おじさん、おなかすいてるの?」
ふーくんが男を見上げます。男は腹を押さえ、舌打ちしました。ゆうくんは男に駆け寄りました。
「おなかすいてるなら、ケーキ、すこしあげる。ぼくとふーくんとママと、シッターさんがたべても、ケーキはあまるとおもうんだ」
ゆうくんが箱を開けようとするので、男は慌てて、
「いいよ、いらねえよ! うちに着くまで送ってやるから、ケーキは大事に運べよな」
と両手を顔の前で振りました。
「ありがとう!」
ふたりは頷き合い、マフラーもしっかりと結びました。橋の上へ続く道を上がっていきます。男はそのあとをついて行きました。
橋を渡った先の教会では、牧師さんが礼拝にやってきた人々を、入り口で招き入れていました。通りの向こうを、ケーキの袋を肩にかけた兄弟がえっちらおっちら、歩いていくのが見えました。後ろを歩く男性を見つけると、
「親御さんがいたんだな」
と安堵して、そっと十字を切りました。
兄弟はまだまだ歩いてようやっと、マンションの前に着きました。
門のところにふたりのママが立っています。ふっくらとしたダウンコートを着て、それでも寒そうに体を縮め、左右を見渡していました。
子供たちの姿を見つけると、駆け寄ってぎゅうっと強く二人を抱き締めました。
「ごめんね、遅くなって」
「ママ、ケーキとってきてあげたよ!」
ママが怒ってないとわかると、ゆうくんは得意気に紙袋を見せました。ふーくんも、うんと胸をそらせます。ママは子供たちの前に膝をつくと、ふたりの頭をくしゃくしゃと強く撫でました。
親子が出会えたのを見届けると、男は何も云わずに立ち去ろうとしました。
「あの人は?」
「ぐうぐうおじさん!」
とふーくんが笑いました。
「ここまで送ってくださったんですか?」
ママが、男に尋ねると、男は足を止めました。
「いえ、橋のところからですので。ほんの少しの道のりです」
「どうもありがとうございました。そうだ、もし良かったら」
ママは家のなかにかけ戻り、小さな箱を抱えてきました。
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