光が共に在る時も、闇の中に在る時も

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「ミル打ちの細かさが時代で全然違うのを見る度に、人間自体の能力は退化してるんじゃないかと思うわ」  第1章と銘打たれた展示室から第2章へと向かう通路で、山本歌織が独り言の様な小さな声で呟いた。 「技術に制限が有った頃、人の手で補った工夫は本当に凄いですよね。プラチナが使える様になった頃の職人は、きっと腕が鳴ったんだろうなあ」  安斎透は、独り言に勝手に答えた。  ……歌織は、流石だ。  「かわいい!」だの「でっかい石!」だの「いくらするのかしら」だの「このチーター、キラッキラし過ぎて悪趣味じゃなーい?……あ、豹か」というのとは全く違う感想を聞けるのは、安斎にとっては至福の時だ。  有り難すぎて足元にひれ伏して「思う存分踏んでください!」と、頼みたくなる。  もっとも、今日の歌織のボトムはスカートではなくワイドパンツで、足元はいつもの華奢なヒールではなくフラットに近い紐靴だ。  美術館では静かに、という配慮が形になった服装も、心の底から好まし過ぎる。  ……すぐにでも実家に連れて帰って、若奥様と呼ばれて欲しい。  先程目にしたティアラの数々を思い起こしながら、安斎は暗闇で密かに悶えた。
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